2022.6.18 6月フォーラム 「50年後の自分と社会を支える -公的年金制度の仕組みと個人としての将来への備え方-」
鈴木 涼平氏
経歴
KIPアラムナイ
東京大学法学部を卒業後、経済系官庁に入省。国際経済分析やマクロ経済政策運営に携わった後、イェール大学経営大学院へ留学しMBAを取得。帰国後、人事部門にて組織マネージメントへの従事を経て、社会保障政策に従事。
内容紹介
【スピーチと質疑応答】
鈴木氏のご講演では年金の基本的な概念についてのご説明から始まった。年金は予想外に長寿となった際の生活を保障するための保険という概念が本質であり、よく巷でいわれているような払い損、もらい得といった国家から得られる収入という概念はそもそもそぐわない、ということは誤解されやすいので強調されていた。年金はこのように誤解を受けやすく、また実態が正確に伝わっていない面も多いことから、国としての見解や正確な実態のご説明をされた。
例えば、年金制度の崩壊に対する懸念がよく訴えられているが、年金支給額を物価変動や賃金の変動に合わせて変動させるルールや、平均余命等に連動して年金支給額を調整するマクロ経済スライド等の仕組みにより、年金制度の持続可能性を担保しているとのことであった。
他にも高齢者1人当たりを扶養する生産年齢の人の割合が少子高齢化の進行とともに減少し、高齢者を支えきれなくなるのではないかとよく指摘されるが、高齢者以外にも子供や労働に従事していない方々も勤労者により支えられていると考えれば、社会全体としては扶養される人の割合はあまり変化しておらず、扶養すべき人々の割合が増大しているわけではないとのことであった。また、人口動態を見てみても、現在は団塊世代の高齢化や急激に進行した少子化の問題もあるため高齢者の割合が急増しているが、ある時期から出生率は下げ止まったことを踏まえると、今後は人口ピラミッドの構成も急激に変化しなくなるので、そのことは年金制度上プラスに働くともおっしゃっていた。
このように年金制度は持続可能な制度になるように設計されている。また、基礎年金の2分の1は保険料ではなく税金で賄われていること踏まえると、上述の年金制度の本質から外れるものの、年金を投資商品として考えた場合でも悪いものではないともいえる。
最後に年金制度は国全体の経済成長と密接に関係しており、年金を持続可能にしていくためには国の経済発展が不可欠と話され、経済発展の重要性を強調してご講演は終了した。
質疑応答ではご講演では時間の都合上省略せざるを得なかった箇所に関して活発に対話がなされた。特に、現状積立金を削って払われ始めている中で将来本当に年金をもらうことができるのか、また将来の生活に備えて今何を行うべきであるかという質問がされた。人口動態が将来的に安定すれば年金の支払いの負担感も改善されていくこと、さらに将来に備えた個人年金の積み立てについても強調されていた。
【グループ討論と全体討論】
現在の公的年金の負担を減らすか維持するか、減らすならば社会保障費の減額をどう補うべきか、というテーマで討論を行った。また、米国式の個人年金を重視する方式か、北欧式の国家により年金を配分する方式のどちらが好ましいか、という問いもなされた。
グループ討論では、年金の負担を維持すべきという意見が過半数を占めた。年金のみで生活している方も多く、年金支給額を下げるのは難しいのではないかとの懸念が見られた。一方で負担額を減らすにしても施策は何通りかあり、一定の収入のある高齢者の年金支給額を減額したり、高所得者への負担額を増額したりするといった施策で、必要な方々をうまく支えられるようにするのが良いのではないか、という意見が見られた。
全体討論でも同様に負担を維持すべきという意見が多く見られ、労働に対する価値観など、活発な討論がなされた。
【全体私感】
年金に対する見方が大きく変わったと感じる講演であった。また、保険料を負担している社会人と、まだ負担されていない方も多い学生会員との間の考え方の違いも目立ったと感じる討論会であった。
(KIP社会人会員 湯山 康介)