2021.2.14 2月フォーラム 『Dawn of Digital Currency (デジタル通貨の夜明け)』

2月オンラインフォーラム開催。今回は、アラムナイ会員の多田哲朗氏をお招きし、デジタル通貨に関して、概念的な説明からこれまでの国際的議論、そして今後の展望などのお話をいただきました。デジタル通貨についての知識を深めたのち、ステーブルコインの一種であるリブラ(現ディエム)について、「国はリブラ(ディエム)のサービス開始を認めるべきか。また自分はサービスが開始されたら使うか。」というテーマで討論を行いました。

多田哲朗氏

略歴

2019年東京大学法学部卒業。現在は経済系官庁にて国際関係の業務に従事。在学中はKIP委員会として活動し、アメリカ研修、北京研修、そして地域研修など多くの研修にも参加。現在も事務局員としてKIPの活動に携わっている。

内容紹介

今回多田氏は、本フォーラムが、今後デジタル通貨の報道を見たときにより理解を深めるための視点提供の場となるよう議論を進めてくださいました。その第一歩としてまず、「デジタル通貨」とは何か、さらには「通貨」とは何か、という定義付けがなされました。その後、デジタル通貨の流れである、「暗号資産→ステーブルコイン→CBDC」のそれぞれについてその特徴、仕組み、そして問題点を、図表を交えながらわかりやすく説明してくださいました。暗号資産は通貨としてではなく、投機目的で使用される傾向が強いこと、ステーブルコインは複数の法定通貨による通貨バスケットの裏付けがあることから価値の安定性は望まれるものの、マネロン・テロ資金の温床になる可能性があり、その管理を民間企業が行うことに懸念が生じること、CBDCは国が発行するという点で他2つと異なり、一国のCBDCが他国の経済に予期せぬ影響を及ぼす可能性があることなどをお話しいただきました。

質疑応答では、各国に先立ってすでにデジタル通貨の運用が始まっている、カンボジア・バハマの例についてもご教示いただきました。先進国より先に途上国で運用が開始されていることに疑問を持った参加者も多くいましたが、これには途上国の一部では自国通貨が弱く、自国通貨の利用を促進させるためにCBDCの運用が有効であった、そして、口座は持たないがスマホは持っているという人は多くいる、などという独自の背景があることがわかりました。

これらの知識を踏まえて、後半はグループごとに「国はリブラ(ディエム)のサービス開始を認めるべきか。また自分はサービスが開始されたら使うか。」というテーマで議論を行いました。ここで、リブラとは、Facebook社が2019年に構想したステーブルコインの一種であり、ディエムとは20年12月にリブラから名称変更されたものです。各班からは、サービスを認めるメリットとして国際送金にかかる時間的・経済的コストの削減、そしてデメリットとして、経済政策の実効性の低下、マネロン・プライバシー管理を民間企業が行うことへの懸念、他のデジタル決済が浸透しつつある中での導入に対する疑問などが挙げられました。このような利点・欠点を踏まえて、あるグループではそのデメリットの多さから認めることに反対であるという結論が出され、また他のグループでは、国際送金での利点を望んで賛成である、という結論が出されました。最後に多田氏より、以上の議論に対する講評として、このような議論では、理論的な内容だけでなく、国ごとの社会の構成や人々の意見の違いに着目することも重要である点をご指摘いただきました

多田氏は、これから今後デジタル通貨の報道を見たときには、自分ならどうか、そして、市民としてだけではなく国としてはどうか、という二つの視点を区別して持つべきであるという、今までにない視点を我々に提供してくださいました。ご多忙の中、KIP会員のために貴重な時間を割いていただいた多田氏に、深く御礼申し上げます。

(早稲田大学先進理工学部2年 寺林 咲希)

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