2020.06.23『国際協力の魅力と苦悩 ~ヨルダンの植物園でのボランティア~』
国立科学博物館認定サイエンスコミュニケータ 藤原亮太氏

6月オンラインフォーラム開催。今回はアラムナイ会員の藤原亮太氏から、青年海外協力隊の活動で得た経験についてお話頂きました。フォーラムは質疑応答形式で進み、その後「国は国際協力への予算を増やすべきか、減らすべきか」という観点で討論を行いました。

藤原 亮太氏

略歴

東京工業大学で生命科学を専攻し、修士号取得後は総合商社に入社。農業関連の部署で肥料原料の購買・調達に携わる。2019年に青年海外協力隊に参加を決意し、ヨルダン北部の植物園にて、野生植物の調査・研究および教育活動に従事。新型コロナウイルスの世界的拡大を受け、2020年3月より一時帰国中。

内容紹介

まず藤原氏には、青年海外協力隊に参加するに至る経緯について伺いました。藤原氏は大学に入る前から農業に興味があり、大学院では植物の栄養欠乏メカニズムについて研究されていました。またかねてより国際協力に関心があり情報収集を行っていて、今回の応募に至ったそうです。社会的に安定した総合商社を辞めて青年海外協力隊となることに戸惑いもありましたが、キャリア計画や自身のキャッシュフローの計算表を作成することで将来のイメージを立て、最終的に決断に至ったそうです。青年海外協力隊は現地での生活費と住居が支給されるため、現地の人々と同程度の水準で生活する限りは身銭を切らずに活動できるのも魅力の一つです。派遣先の機関としてはヨルダンの植物園を希望されましたが、その理由としては大学院で植物を専攻していたこともあり、植物園での活動内容に興味があった点、また国連公用語のひとつであるアラビア語が学べるという点がポイントでした。隊員の中には環境の変化や人間関係によるストレスなどに耐えきれず帰国してしまう人もいるそうです。藤原氏は前職で海外企業を相手に営業や交渉を行っており、その経験がヨルダンの人々と良好な関係性を築くことにも活きたそうです。

実際にヨルダンで生活をして驚いたこととして、ヨルダン人の東アジア人に対する反応が挙げられました。ヨルダン国内では日本人より中国人の方が圧倒的に多く、第一印象で中国人だと思われることが多いそうです。ヨルダンでの活動を通して、宗教や価値観の違いを乗り越えながら仕事を進めることの面白さを感じると共に、国際協力や異文化理解は大変エネルギーの必要な作業だということを実感されたそうです。

藤原氏は隊員として活動する中で国際協力に対する考え方が変わり、国際協力を直接の専門とするのではなく、他分野の専門性を磨くことでも国際協力の世界で活躍できるなど、様々なキャリアパスの可能性を感じることができたと仰いました。藤原氏の仕事の一つはヨルダンの野生植物の調査と収集で、修士号や博士号を持つ職員の方と共に同じ目的を持って専門的な業務を行っていたそうです。ところが新型コロナウイルスが周辺地域で蔓延し、ヨルダン国内でも感染者が現れたことから、ヨルダンで活動する隊員は帰国することとなり、もどかしさや無力感を覚えたとも仰いました。青年海外協力隊は2年間の任期の中で国際協力の現場を知ることができるのが良い点ですが、個人のスキルや専門性によって仕事は違ってくると藤原氏は指摘されました。青年海外協力隊が現地に根付いた草の根レベルの活動を行いますが、2年間の任期の中で効果的な支援を実現するためには現地の人々とのコミュニケーションが必要不可欠です。

ここまでのお話をふまえて、グループに分かれて「コロナで自国中心主義の風潮が高まる中、日本は国際協力への予算を増やすべきか、減らすべきか」というテーマで討論を行いました。多くの班で、予算の使い道を見直して無駄を削減し金額を増やすまたは維持すべきという意見があった一方で、日本国内で経済的に余裕がない中では国際協力への予算を減らすのが妥当という意見もありました。討論の中ではコロナウイルスによる経済停滞を鑑み、額面を維持することは難しいという点も指摘され、経済の規模によってGDPに占める予算の割合を定める方法や、ポストコロナ時代の技術協力のあり方などの可能性にも言及がありました。藤原氏はまとめとして、持続可能性という視点を以って国際協力を続けていくことが、行政としても、国際協力に携わる個人としても重要だという点を指摘されました。またデジタルトランスフォーメーションやFinTechなど、テクノロジーの発展に伴う新しい国際協力の可能性についてもご指摘頂きました。

藤原氏はご自身の経験から、国際協力の現状や重要な論点などについて説明してくださり、本フォーラムは私たちが国際協力とどう関わることができるかについて考える貴重な機会となりました。この場を借りて、お忙しい中KIP会員のために時間を割いてくださった藤原氏に感謝申し上げます。

(東京大学大学院学際情報学府 修士1年 坂東 力)

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