2020.02.15『オリンピックの光と闇』
東京土建一般労働組合 専従常任執行委員 中村 修一様

2月フォーラム開催。今回は東京土建一般労働組合専従常任執行委員の中村修一氏をお招きし、アラムナイ会員との対談形式でご講演いただきました。オリンピックを機に注目を浴びるようになった建築業界の抱える構造的問題と、問題解決への道筋についてお話しいただきました。

中村 修一氏

略歴

1967年生まれ。東洋大学法学部卒業、行政書士。1993年に労働組合法人「東京土建一般労働組合」に入局。足立区労働報酬審議委員(2014年~2016年)、2017年4月専従常任執行委員、全建総連東京都連合会賃金対策部長として現在に至る。 論文の数も多く、現在、全国商工新聞「建設短信」を月2回連載中。

内容紹介

2017年、新国立競技場の現場監督が過労自死したニュースが世を巡り、輝かしいオリンピックの裏で起こっている労働問題が明るみになりました。今回のご講演ではこの事件の元凶となっている、建築業界の構造的問題について詳しく解説していただきました。建築は莫大な費用がかかり、受注生産業のため安定した雇用が難しい業界です。そのため費用・雇用を分散させるべく分社化・請負が進みました。この元請けと下請けが完全な上意下達組織で、下請けは上に要望を通しづらい状況の中、YKKKY(安い、きつい、危険、汚い、休みがない)と言われる過酷な労働環境で厳しい工期に追われている現状があるそうです。また業界の高齢化・若者離れが進み、外国人労働者の受け入れが必至であるにも関わらず、技能実習生への暴行や、日本語教育が行き届いていない問題もあるとうかがいました。

討論ではこれらの闇の部分を念頭に置き、「オリンピックは国を挙げてやるべきか? Noであればなくすべきか、あるいはどこがやるべきか?」というテーマで意見が交わされました。多くの班は自国の文化を発信できる、経済活性化に繋がる、平和交流を促進する等のメリットから国を挙げての開催を賛成する立場でした。唯一反対した班は、1つの開催都市に負担が集中することで、厳しい工期・過酷な労働環境が生まれるのではないかという意見でした。その班はアジアなどの地域開催・世界大会の同時開催という形を提唱していましたが、中村様にご講評いただいた中で、地域分散ができないのは政治的な原因(経済界の意向)があるというお話がとても印象深かかったです。東京五輪もこれを機として臨海部を再開発するという目論見があり、豊洲移転・横浜の整備など「便乗建設」が行われています。開催都市を分散することで地域活性化・人手不足解消が期待されるというメリットもあるかと思いますが、こうした開催都市を一極化することによる利点が背景にあると分散の意思決定をするのが難しいのだと学びました。

今回の討論会ではオリンピックを扱いましたが、対談をお聞きする中でこれは五輪の現場に限らず業界全体の問題であると気づかされました。オリンピックという全国・全世界的に注目される機会があってこそ、この問題が周知されるようになったにすぎません。無理な工期が設定されないよう発注者責務を追及していくことや、公共工事労務単価と実際の賃金との乖離を是正すること、技能評価制度(職種別賃金指標)を作成して公正な対価の支払いを保証する、など行政・法規制で問題を是正できる施策についても中村様のお話からうかがいました。私たちが建築業界の負の部分の解決に少しでも参画できるよう、こうした法案令や条例の動向について今後有権者として注視していきたいです。

( アラムナイ 乗富 真穂)

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