2020.10.17 「震災から見えてくるものー伝える役割と話す責任」
小さな命の意味を考える会代表、NPOカタリバ アドバイザー、文科省委託事業「いのちを語り継ぐ会」講師 佐藤 敏郎氏
10月フォーラム開催。今年度のプロジェクトでは「伝える役割と話す責任」をテーマとし、自然災害による風評被害の予防と被害者の心理的ダメージの軽減を目指した研究を行っております。そこで、今回は大川小学校地区の語り部としても活躍されている「小さい命の意味を考える会」の佐藤敏郎氏を講師に迎え、東日本大震災で実際に起きた事実から防災において大切なことをお聞かせいただきました。
佐藤敏郎氏
略歴
宮城県石巻市出身。 宮城教育大学卒業後、中学校の国語科教諭として宮城県内の中学校に勤務。震災で当時大川小学校6年の次女を亡くす。2013年末に「小さな命の意味を考える会」を立ち上げ、現在は、全国の学校、地方自治体、企業、団体等で講演活動を行う。
内容紹介
佐藤氏のお話では、東日本大震災で多くの尊い命が失われた事実が重く心に響いた一方で、すべての人が防災意識を高めていくことの必要性を感じました。佐藤氏が、防災とは「あの日を語ること」、「未来を語ること」、そして「ただいまを言うこと」とおっしゃっていたことが心に残っています。今回のご講演で、多くの人の命が失われるような大災害は私たちの「日常」に起きることに気づかされました。
大川小学校では、当時6年生だった佐藤氏の娘さんを含む多くの子どもたちが犠牲になりました。同学校は北上川とその支流である富士川の近くにあり、川を逆流してきた津波が避難途中の子どもたちと先生たちをのみこんでしまったのです。このとき、子どもたちは学校近くの裏山へは逃げず、避難していた校庭から川にかかる橋の方へと避難している途中だったそうです。しかし、命が救える条件として挙げられる「時間・情報・手段」の3つが、当時の大川小学校ではすべてそろっていました。実は、命を救うことができるのは、想定外の事態が起きたときの「判断」と「行動」だと佐藤氏はおっしゃっています。佐藤氏によると、想定外の場合に行う「判断」と「行動」とは、そのようなときにのみスイッチを入れる「ギア」であり、この「ギア」を動かすのは輝く命を常に想うことです。私たち一人一人の命を大切に思うことが防災へとつながるということに、私は深く納得しました。
大川小学校で起きた事実を伝えるとき、佐藤氏が大切にされていることが「命の意味づけ」です。大川小学校で起きたことは絶対に忘れてはいけないことであり、そこで失われた命から未来への意味付けをしていくことが大切だと佐藤氏はおっしゃっていました。ここで、「伝える役割と話す責任」が重要になると思いました。
大川小学校で起きたことを佐藤氏にお話しいただくと、Zoomでの開催ながら重い雰囲気に包まれました。しかし、その後のインタビュー形式でのご講演では、防災や復興において大切なことについて熱い議論ができました。「未来に起きるかもしれない災害を想定するとき、必ず自分や自分の大切な人を登場させ、成功に導いていくということが大切だ」という佐藤氏の言葉が印象に残っています。私は東日本大震災が起きた当時、小学生でしたが、大川小学校に通っていた子どもたちも同じ立場だったことに気づき、日常に起こりうる災害に対する意識がより鋭くなったように思います。今回の佐藤氏によるご講演は、「伝える役割と話す責任」につながる貴重なお話でした。プロジェクトに生かしていきます。
(慶応義塾大学理工学部2年 鈴木 百夏)