2019.10.1 KIP9月フォーラム 「政治広報とネット選挙から考える民主主義」
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授 西田 亮介様
9月フォーラム開催。今回は主に公共政策や情報社会論を専門とする社会学者の西田亮介氏と、行政PRに携わるアラムナイ会員、政安望さんををお招きし、メディアを用いた選挙活動や政治広報のあり方について対談形式で解説していただきました。日本の政治広報に関する法制度やイメージ戦略的な政治PRについてのご意見をお聞きした上で、討論は「政治の広告費用の制限はすべきか否か」というテーマで行いました。
西田 亮介氏
現在、社会学者、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授として公共政策と情報社会論を専門とする。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位取得退学。2014年に慶應義塾大学にて、博士(政策・メディア)取得。同大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、立命館大大学院特別招聘准教授等を経て、2015年9月より東京工業大学大学マネジメントセンター准教授。2016年4月より東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授(現職)。ネット選挙、政治の情報発信、行政の広報広聴、電子政府のような政治における情報とメディア、民主主義の普及啓発、投票年齢の引き下げなどを研究している。
講演内容
まず、西田氏とアラムナイ会員政安望さんによる対談形式でお話を伺いました。 最近のメディアの傾向として、20代のテレビ利用者は減少している一方で、主流はテレビとネット利用、特にネット利用者が増加していることはどの世代にも共通しており、ネット上でテレビの報道に関する情報が掲載されたり、SNSで話題になっているものがニュースや新聞で取り上げられたりと、メディア媒体間で互いに影響し合いながら情報がどんどん拡散されていくという特徴があるそうです。
また、政治とメディア、広告の関係性については、ブレグジットやアメリカ大統領選挙でも見られたように、個人のネット上の行動履歴に基づいて広告を発信するネット広告を応用させ、SNSやネット上で有権者に政治広告を配信する情報戦略が浸透しつつあるとのことでした。英米圏では政治選挙活動における言論に対する規制は最小であるべきとする認識が強い一方で、大陸法の影響を受ける日本では、お金がなくても政治参加ができるなど、環境の公正さに重きを置くという特徴だそうです。どちらの価値観が正しいのかという議論は難しいですが、現状として日本でビラの枚数に制限があるのにネット上の広告投稿回数に制限がないということ、テレビやラジオでの選挙活動は放送法上禁止されているがネット上の動画配信は認められているなど、制限の実態と目的に不整合があるということを西田氏は問題視されていました。また、有権者のイメージや印象に訴えかけるマーケティング的手法の選挙活動、政治活動については、政治に常に関心を持つ人が少ない中でそのような方法は選挙当選にはとても効果的であるとする一方で、政策など実質的な部分での理解が深まらないという点では良いとは言えないと述べられました。
ディスカッションについて
後半では、「政治の広告費用の制限はすべきか否か」というテーマでディスカッションをしました。私の班では、政党ごとに制限の程度、基準を公正に定めるのは難しいということ、広告活動を政治家の表現の場とした時に政治家の表現の自由を狭めてしまうということから、広告費の制限はすべきではないという意見が出ました。フロアディスカッションでは、資金的にも人数的にも圧倒的な大政党に対して広告費に制限がなければ小政党が成長できる機会が減ってしまうという理由から制限をすべきだという意見が多く挙げられ、積極的な議論が行われました。
ディスカッションの総評として西田氏は、今現在実際に政治広告費用に一定の規制があるという前提の上で、制限を更に加えたときに政党はボランティアへの広告活動委託などといった適応行動をとる可能性が考えられ、制限に実効性は伴うのかということを考える必要があるということ、制限を加える時の条件によってもその実効性は左右されるということを述べられました。
(慶應義塾大学法学部政治学科2年 栢菅 美咲)