2019.4.24 「日本に芸術は育つのか。文化・芸術への支援は必要か。」
日本音楽財団 常務理事 加納民夫氏

加納民夫氏: 東京芸術大学を卒業後、NHKに入局。NHK交響楽団に出向して指揮者や曲目の構築を担当。復職後、音楽番組部長、大分放送局長を経て、NHK交響楽団常務理事として演奏企画を策定する。現在は日本芸術文化振興会で文化・芸術団体への公的助成金の仕組みづくりを行っている。

日本における文化・芸術の支援がどのような政策や枠組みで行われているかについて、国際的な比較を踏まえてご講演いただきました。以下がスピーチ要約です。

政府は文化・芸術への支援を社会的必要性に基づく戦略的な投資と位置づけ、アーツカウンシルを設立して経済的な支援をしています。アーツカウンシルはイギリスから輸入された制度であり、専門家によって構成される第三者機関が文化への助成の審査や評価を行うものです。

新しい枠組みで文化振興が行われている一方で、文化振興に使われる予算は国家予算の0.015%であり、諸外国と比較して低いです。また、日本には寄付文化がないため、企業等、国家以外の支援者が少ないことも課題に挙げられます。文化芸術施設を建てるだけでなく、企画を提案、実行することができる人材を育成することが必要であり、そのための投資や、施設間連携、大学との協力を目指しています。

質疑応答では、諸外国の文化支援との違いについての質問が寄せられました。シンガポールやオーストラリアは英米の影響を受けて支援に熱心な点や、アメリカでは寄付をした企業のために公演の際に席を用意したり、企業の意向に合わせた曲目決定をしたりするなど寄付を集める工夫がされている点などが指摘されました。また、日本でも、NHK交響楽団が若い世代の客層を取り込むために学生料金を設定しているとのお話をうかがいました。

「文化・芸術の支援には税金と寄付のどちらが良いか?」を議題にグループ討議を行いました。税金による支援を求める意見では、芸術が国民の文化的素地を育てる教育効果に言及する意見や、支援の長期にわたる安定性を指摘するものがみられました。一方で、寄付による支援では、文化・芸術は一人一人の嗜好によるものであり、国民の義務としてその資金を徴収するべきではないとする考えや、インバウンドをはじめとする投資としての側面に注目するものがみられました。

今後寄付による支援が広まった場合、企業が集中する東京など大都市に支援が集中し、地方の文化・芸術団体が衰退する可能性について議論が深められました。地方の団体が減っても、巡業などにより対応でき、むしろ選択と集中をすることでレベルが上がるという意見があった一方で、地方の人材が若いうちから芸術に触れ、才能を見逃さないようにするために地方への支援が必要だとする意見も出るなど、活発な議論が交わされました。

(東京大学 工学部 赤木拓真)

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