2019.3.7 「世界の自動車業界を変革する新技術---"CASE"の現状と今後について---」 KIPアラムナイ 中津留 隆氏
中津留隆氏: 東京大学法学部を卒業後、日系大手自動車会社に入社。約6年ほど勤務された後、現在は外資系コンサルティング会社に勤務されています。
「将来、車を運転したいですか?」という中津留氏の問いかけから始まった今回のアラムナイトークは、いつもの講義形式とは異なり、食事をしながら事前に配布された資料に基づいて質疑応答を行うという、カジュアルな形で進められました。 話題は当然のことながら多岐にわたり、日本や世界の自動車業界をとりまく昨今の状況から、電気自動車や自動運転の今後の展望、さらには地方活性化に対して自動車が貢献できる可能性まで、様々なトピックに関して貴重なご意見を伺うことが出来ました。 事前に頂いた資料では、今まさに「100年に一度の大変革」、ドラスティックな変革の真っ只中にある自動車業界では、CASEと呼ばれる、“CONNECTED”、“AUTONOMOUS”、“SHARED & SERVICES”、“ELECTRIC”という4つのトレンドが重要視されていることが示唆されていました。 ここでは、そのような前提を踏まえ、当日交わされた数多くの議論の中でも特に印象的だったものを示したいと思います。
いささか強引にまとめてしまうなら、それは「本当に自動運転、電気自動車の需要は伸びるのか?」という議論でした。 長期的に見れば、いずれは例えばアフリカ等の新興国の自動車の需要が伸びるはずであり、そのような地域ではこれらの性能は果たして必要とされているのか、という学生からの質問に対し、中津留氏の回答は、確かに30~50年といった「長期的」スパンで考えれば、新興国の需要は間違いなく伸びるはずである、しかしながら、現在の技術革新のスピードを鑑みれば、ある意味それは「超長期的」な視点であり、今後5~10年の間に実用化に向けて着実に前進していくであろう、これらの技術に関しては、自動車業界はやはりアメリカ、EU、中国といった現在の主要市場の動向に注目して、対応していくことが必要だろうとおっしゃいました。
このような回答は、大まかで性急な判断を下すことに警鐘を鳴らし、ひとつひとつの個別具体的な事実に基づいて判断を行うべきという氏の強い信念から、導き出されたものだと感じられました。
最後に中津留氏から、アメリカで年間自動車販売台数のトップに君臨し続けているのは、燃費の良い高性能な車ではなく、典型的な「アメリカ車」である大型車であるというお話がありました。 このような事実は、車には性能だけでは語れない、その国・地域の文化に根ざした、人々の生活とより深いレベル関連する部分が、紛れもなく存在することを示唆しています。 そこに自動車の真の魅力があると前置いたうえで、「いつかは再び自動車業界に戻ることも考えている」と語る中津留氏の、社会人としての真摯な姿勢に、学生一同深く感銘を受けたことは言うまでもありません。
最後になりますが、ご多忙の中お時間を割いて御足労いただいた中津留氏に心から感謝申し上げます。ありがとうございました。
(東京大学文学部 瀬戸多加志)