2024年KIP地域研修報告【長崎研修】
今回の長崎研修は、佐世保市と、その隣に位置する波佐見町を2泊3日で訪問した。 KIPの学生・社会人合わせて9名が参加し、近代化の歴史が垣間見える長崎で、産業やそれを支える「高専」について、現地の企業や産業施設、そして佐世保工業高等専門学校(以下、佐世保高専)を訪問して学んだ。 1日目は波佐見町の長崎県窯業技術センター、佐世保市の株式会社九州テンを訪問し、伝統的な産業である波佐見焼と、IoTの世の中で欠かせない存在である通信技術産業について学び、実際にその産業を支える方々の生の声を伺った。 2日目は、日本海軍の軍港都市として栄えた佐世保の歴史を海上自衛隊佐世保史料館(セイルタワー)にて学んだ。その後、佐世保高専へと移動し、高専ではどのような学習や研究が行われているのか、学生は何に興味があるのか等、交流会のなかで普段聞くことのできない話を沢山することができた。 3日目は、高専生との討論会を中心に進められた。トピックは、「デジタルデバイド」と、今年度PJのトピックである「政治」の2つで行われた。 KIPの地域研修で高専を訪問するのは初めてであったが、KIPの地域研修の特色に合ったものであると、実際訪問してみても感じた。高専の特徴である、各地方で技術者育成のための実践的な教育を行なっているということ、そして地域の産業の特色が専攻などにも表れているということが、地域の産業や若者の声を見聞きして学ぶ、KIPの地域研修にマッチしていたからだ。
【研修スケジュール】
9月13日(金)長崎県窯業技術センター・株式会社九州テン見学
9月14日(土)セイルタワー見学・佐世保高専訪問(高専生との交流会・久保氏による講話)
9月15日(日)佐世保高専訪問(高専生による研究発表・討論会)
【窯業技術センター】
窯業技術センターの吉田氏からは、昭和5年に設立された長崎県窯業技術センターの取り組みの概要を伺った。一般に陶磁器の需要や生産元が減少傾向にある今、窯業を支えるための取り組みの1つに「はりつき支援」があり、年に一度、近隣の50の窯元を訪問し、現状の聞き取り調査を実施することで、地域との結びつきを強化しているという、興味深い話も伺った。歴史ある産業だが、先端技術を取り入れながら進化していて、例えば3Dプリンティング技術を活かした生産が行われる様子も見学した。そうした技術面だけでなく、ふるさと納税の寄付が大幅に増加したことや、SNSを活用したマーケティングにより波佐見焼の購入層が若い世代にも広がっており、特に女性や夫婦、家族連れなど、多様な層に支持されていることは、実際にお話を伺わなければ知ることのできない、面白いお話だった。
【九州テン】
九州テンでは、企業説明のなかで、ネットワーク通信基地局やドライブレコーダー、病院や工場の現場で使われるIoTによる設備管理システム等、身近なサービスの根幹を支える技術を九州テンが提供している例を伺った。「この企業といえばこの商品、サービス」というイメージを提供元の大企業に対して持つことが多いが、その裏で九州テンのような、高い技術を持つ会社の存在が与える影響は計り知れないと感じ、日本全体で産業がどのように支えられているかの解像度が上がったように思えた。九州テンで働く皆瀬氏からは、大企業に比べスムーズな意思決定と実行がなされると話した。熱が冷めないうちにプロジェクトを進行できること、自分の努力が着実に成果に直結する働き方の魅力を伺い、「働く」ということについても考える良い機会ともなった。
【セイルタワー】
「セイルタワー」という愛称で親しまれる海上自衛隊佐世保史料館を訪れた。 19世紀の佐世保鎮守府が設置されたその日から、艦艇のための補給、休息、整備拠点として日本の海を守るための機能の一端を担い続けてきた佐世保の歴史を学んだ。展示は、いかに長崎や佐世保に海軍の施設が設置されるようになったかに始まり、旧大日本帝国海軍の日露戦争や世界大戦での軌跡から、近代化した海上自衛隊の歴史や現在の活動内容を詳細に紹介していた。
【佐世保高専生への体験談話】
この企画は、KIPの理系学生から自分の進路選択やリアルな大学生生活、学んでいる学問・研究分野について紹介をし、高専生に大学への興味や理解を深めてもらいたいという趣旨から実施された。KIPの理系学生5人が体験談話を発表した後はKIPメンバーと高専生が小グループに分かれ、ローテーションをしつつ質疑応答や自由な交流ができる時間を設けた。カジュアルな形式の交流を通じて、地元の学生目線から、佐世保や長崎という地域に根差したお話を聞けたことも大変貴重な体験であったと感じる。 また、高専卒業後の進路に関する各々の決意や悩みを聞けたことも非常に印象に残っている。高専生の中には就職のほか、専攻科進学や大学への編入を考える人も少なくない。今回の交流企画においても、1年生から5年生と幅広い学年の高専生が参加してくれたため、既にインターンシップを経験した人や内定をもらっている人、大学進学を決意している人、進学か就職か進路選択に迷っている人など、多様な視点からの意見を聞くことができた。
【KIPアラムナイ久保氏による講話】
KIP大学生による体験談話に続き、KIPアラムナイで、佐世保高専卒業生でもある、久保文雅氏に講話をいただいた。一度就職し、その後再びアカデミズムの世界に戻ったという経験豊富な久保さんから、彼の経歴や今研究していることだけでなく、今後進路選択が待っている私たちに、「生きがいとは何か」、「どのように進路を決めていくのか」というお話も頂戴した。中でも印象的であったのが、進路を決める際に直感も大事であるという彼の言葉である。直感とは自分の素直な気持ち、これまで積み上げた知識や考えの表れだから信じてもよいのだと、久保さんは述べた。最後に、そうした直感を鍛えるために、様々な物事にチャレンジして自分のやりたいことを見つけることが大事だというメッセージを頂き、本講話は終了した。これからまだ就職という大きな進路選択が残るなか、先輩からの経験談を聞くことができるのは貴重な体験であった。そして、本地域研修は、久保さんのご協力があって行うことができた。改めて、ご尽力いただきありがとうございました。
【高専生による研究発表】
研修最終日には、佐世保高専生による研究発表が行われた。この研究発表によって高等専門学校では、専攻科目だけでなく、課外活動として、地域との連携した、実践的な学びを行っていることが分かった。例えば、「長崎つなぐっど」は長崎の県産品を題材に商品企画から商品販売までを行っている。実際、どの企業に商品開発を頼むか、どのような年齢の人に買われるか、類似品はないかを考え、SNSなどのマーケティングなどの活動も行っていることが分かった。実際に商品を買ってくれる方には地域の方々も多いと話しており、地域の方も高専生を応援する気運があると感じた。専門領域に限らず、企業と連携して企画から販売まで行うことにより、学生のうちから社会全体のことを実践的に学べる環境が整っていると感じた。他の研究発表内容においても、ARやIoTを活用した実用的な技術や、微生物発電等、早い段階から高い技術力・専門性を身に着けて取り組んでおり、高専ならではの強みを実感した。
【高専生との討論会 トピック:政治】
「被選挙権の年齢を下げるべきか。上限を設けるべきか。」というテーマで討論は行われた。グループ討論では、被選挙権の年齢を下げることへの賛成側の意見として、若者の関心を惹きつけられること、政治家としてのキャリアを早くから形成可能であること、25歳未満であっても政治について詳しい優秀な若者であれば選挙に出られるのは自然であることなどが挙がった。一方で、反対側の意見としては、立候補者への批判を25歳未満の若者が受けることへの懸念や、数百万円の供託金を支払える高所得層の若者が優位に立つことによる不平等、社会経験が少ない年齢で国民に寄り添うことができるのかといった疑念などが挙がった。グループ討論が終わった後、各グループから高専生がそれぞれの意見を発表した。政治家としての能力は必ずしも年齢では測れず、実際に働いたり税金を納めたりといった社会経験の方が大切であるといった意見や、被選挙権に上限を設けることについて、長期的に見て政治家の平均年齢が下がることにつながるため肯定する意見などが挙がった。
【高専生との討論会 トピック:デジタルデバイド】
続いて、「若者と高齢者の間のデジタルデバイドをなくすにはどうすべきか」について討論会を行った。様々な意見が見られ、デジタル教室の開講等、高齢者も学べる環境を実例とともに紹介する班や、世代問わず実用的にするには、病院や行政での手続きなどに最低限必要なことがデジタルでできるような機能の単純化や操作の簡単化が必要だと述べる班、災害が多い日本ではデジタルだけでは難しい面もあることが理由で、デジタルとアナログの両立の重要性を訴える班もあった。「デジタルを教える教室を作るよりも出向いて行った方が伝わるのではないか。」「人材が足りず、訪問は現実的な施策ではない。」などの地に足のついた議論が展開されていた。直感的な操作性の例としてインターンでの経験を共有してくれた高専生もいた。MR (Mixed Reality)を活用した事例を話してくれるなど、参加者の専門がうまく発揮された討論会であった。