オーストラリア研修おススメ書籍紹介 第二弾 望月優大著『ふたつの日本:「移民国家」の建前と現実』
「私たちは今、かつてない体験をしている。電車に乗れば、アジアのどこかの国の言葉がふと耳に飛びこんでくるし、近くのスーパーでは、大根や豆腐をぶら下げて買い物をしている留学生たちをよく見かける。またオフィス街では、日本人の同僚に混じって外国人ビジネスマンが働く光景は、あたりまえとなってきた。この新しい事態に日本人はとまどっている。」この文章を読んで、全くその通りだと感じた方も多いのではないでしょうか。しかし実はこの文章、今から30年以上も前の1988年に出版された本の冒頭から引用したものなのです。
平成30年間を通じて、日本は多くの外国人を受け入れてきました。冒頭の文章が書かれた頃である平成元年には100万人程度であった在留外国人数は、いまや300万人に迫っています。こうした現実は、例えば私たちに身近なコンビニエンスストアや飲食店における急激な外国人労働者の増加など、多くの人が実感しているのではないでしょうか。
その一方で、日本では長らく「移民」という言葉が忌避されてきました。日本政府も意図的に彼らのことを「移民」ではなく「外国人労働者」と呼び、いまだに外国人を支援する専門の省庁も存在しません。著者の望月氏はこうした日本の在留外国人に関する「現実」と「建前」に着目し、それらからなる「ふたつの日本」にどう向き合っていけばいいのかについて、わかりやすく解説しています。
本書ではまず、現行の受け入れ制度が図を交えてわかりやすく解説されています。これは複雑な制度を理解し、研究を進める上でとても役に立ちました。そのほかにも、著者が実際に行ったインタビューに基づく「移民」の声が紹介されています。そこでは来日して30年経つのに日本語がままならず、いまだに工場で働く日系ペルー人の例など、「建前」を守るために弱い立場におかれてきた人々の不安定な現状がありありと示されています。
こうした「現実」と正面から向き合い、日本で多様な人々がお互いに気持ちよく過ごせる社会を実現させるためには、どうしたらよいのでしょうか。その答えを探るべく、私たちは外国人の労働環境に詳しい弁護士に直接お話を伺う他、実際に外国人労働者を多く受け入れる群馬県やオーストラリアで、受け入れ側と労働者の話を聞いてきます。その際に、本書から学んだ制度への理解や問題意識が活かしていきたいと思います。
(慶応義塾大学法学部 昼田 里紗)