2023年プロジェクト「農業を中心とした第一次産業に対する日豪若者意識調査」
気候変動や新たなウイルスの出現など、世界の食料生産に様々な脅威が生じている昨今、私たち2023年度プロジェクトメンバーは、「日本の食料生産、特に農業の状況をより良くしたい」と考え研究を行っています。このプロジェクトを通して、若者の農業への関わり方や食にまつわる日豪関係を向上させる一助となれば嬉しいと考えています。
【22年度KIPプロジェクトとの連続性】
22年度には食を通してみた若者のコミュニティをテーマに、共に食事をとることが若者の居場所作りに重要な役割を果たしていることを明らかにしました。しかし、その前に、そもそも日本では食にまつわる課題が様々指摘されています。そこで、将来自分たちの食料を確保していくために、中でも「第一次産業の成り手不足」を喫緊の課題として捉え、若者が食料生産分野に参入する際の障壁を明らかにし、第一次産業へのイメージチェンジをはかるため、このプロジェクトを立ち上げました。
【研究の方法】
日豪の若者へのアンケート調査
どうしたら、次世代の食料生産を担う若者が、第一次産業に関わりたいと思うのか?私たち若者の率直な意識を探りたく、まずは国内で1000人の若者にアンケートを行いました。アンケートでは主に以下の三つの観点から調査を行いました。
1:若者の第一次産業に関する率直なイメージ
2:若者の将来の選択肢、職業としての第一次産業の捉え方
3:若者が認識する社会問題と第一次産業の関係
まず、日本のアンケートからは、「第一次産業を重労働だと思う若者が非常に多い」 「農業には趣味として関わりたい若者が多い」といったことが分かりました。 また、オーストラリアの若者に行った街頭アンケートでは、「日本と同様農作業を重労働だと思う人が多い」「農業教育を受けた人の方が受けていない人より農業に関わりたい度合が高い」ことが分かった他、「気候変動への懸念から自給のために作物を育てたい」という回答が散見されました。日豪意識調査の結果はいまだ分析中ですが、今後の若者と農業の関わり方 を考えるにあたって重要な結果が様々出てきています。
オーストラリアでの農業、畜産業など食料生産、政策現場へのインタビュー
今夏、オーストラリアの農業を参考にして日本で農業に関与する若者の割合を増やすための方策を考えるため、オーストラリアのさまざまな企業、非営利団体、大学、農園、官庁を訪問しました。 まず、オーストラリアには近隣の土地を買収し大規模化することにより競争力をつけようとする動きがあることに加え、人々の間では主要産業の一つを担う稼げる業種として認識されていました。これは高齢者が経営する小規模農家が中心の日本との大きな違いでしたが、一方で、精神的負担や気候変動が原因で就農を望む若者は減少しており、これは日本との共通点でした。その解決策としてオーストラリアでは、少ない農業人口でも対応できる生産性を高める工夫を行っています。また、農業従事者以外にも農業関連の業種に携わろうとする若者の意欲が高かったことも印象的でした。 第二に、オーストラリアには農業に関連する職種が多岐にわたって存在しました。データ分析や経済学や社会基盤学など、一見すると農業に関連ない分野であっても、農業とうまく連携し、若者がそこに従事している例を目の当たりにしたのです。 加えて、農家と政府、農場と技術を結びつける中間団体が多数存在し、主体的に活動していました。 官庁に勤めながら農家である方や、IT企業を途中で辞めて農業にやりがいを見出している方にお話を聞いた際には、オーストラリア人にとって農業は、ただの仕事ではなく生き方だと教えてもらいました。これは日本の若者の間では欠けている感覚かもしれませんが、大切な考え方だと考えています。
シドニー大学ではKIPから日本のアンケート結果を伝えるプレゼンを行い、学生の方からオーストラリアの農業や大学での土壌の研究について話を聞きました。
オーストラリア国立大学のCEAT(Centre for Entrepreneurial Agri-Technology)ではアグリテックを農業の現場に導入するうえでの課題や解決策についてインタビューしました。
もともとIT企業に勤めていた方が営むワインヤードも見学しました。