2025.6.21 6月フォーラム 「米穀流通2040ビジョン」

講師:木村良氏 (社)全日本コメ・コメ関連食品輸出促進協議会理事長(全米輸JRE)、前全国米穀販売事業共済協同組合(全米販)理事長
略歴:慶應大学経済学部を卒業後、創業1882年の木徳神糧株式会社に入社。社長、会長職を歴任。会長となった時にコメ卸で最大手の全国米穀販売事業共済協同組合(全米販JRE)理事長も兼務する。去年よりコメやその関連食品の輸出の必要性を力説、促進する事業につく。2023年食糧新聞による食料産業特別貢献大賞を受賞。
【スピーチと質疑応答】
主に①コメの流通の基本、②生産サイドの現状、③コメの不足、④将来的なコメ市場の予測と対策、の切り口からお話を伺った。①ではコメが複雑な流通形態をとっていることを学んだ。②ではよくニュースで話題になる後継者の不足・零細農家・耕作放棄地の増加に加え、大規模化の難しさやコスト減の為の機材シェアの難しさを説明していただいた。 ③ではコメ不足のメカニズムについて、政府の説明に反して出荷量自体が少なかったのだろうというご説明をされていた。④ではこれからコメ市場の縮小が進み国内生産では賄いきれなくなるであろうこと、対応策としてサプライチェーンを簡素化することなどについてお話ししていただいた。質疑において行政によるコメの生産調整について意見を伺い、実際の需要と調整後の生産量のギャップが市場における不均衡をもたらしているというお話を興味深く拝聴した。
【全体討論】
スピーチの内容を受け、米の輸出入を促進するべきかというテーマに討論した。まず興味深かったのは、大多数が輸出に賛成であった一方、輸入となると半々で意見が割れた点だ。原因は輸出入が国内生産に与える影響にあった。輸出は需要が減少する国内市場に変わる市場開拓になる一方で、輸入が日本のコメ市場の衰退を招く、という点が盛んに議論の俎上に上がった。 その後は、食料安全保障の観点から国内生産の安定のため輸入を進めることには慎重な意見と、安価米の供給のために輸入を拡大すべきという意見の対立が議論の中核となった。国益を「産業の保護」とするか「安価財の安定確保」とするか、というクラシカルな軸ながら、国民の生活に直結する食糧の特質などから重層的な議論空間が形成されていた。
【全体私感】
総じて、「コメの問題は難しい!」と感じた。これはコメ問題特有の様々な要素に起因する。複雑な流通システムやアクターの多さ、あるいは生産調整をめぐる鉄の三角形の存在が該当するだろう。 しかし、蓋し最も難しいのは政策決定において価値判断が必要不可欠であるという点だ。「全体討論」にて実感したように、国内生産を死守するのか、安価な食料を国民に届けることを第一義とするのかで結論が大きく変わる。本来、これらはゼロサムではなくうまく両立されることが望ましい。 しかし安価なコメの確保には「安価なジャポニカ米の輸入or市場における値下げ」という、国内生産を圧迫する手段を取らざるを得ない以上、一般的な二項対立よりも排反的性格が強い。 最後にフォーラムを通じた私の意見を述べる。私は、やはりコメ政策の第一義は安価なコメを国民に提供することだと思われる。なぜなら遍く産業が栄枯盛衰を辿る中、コメ農業は行政から国民の生命線としての特権的地位を享受してきたからだ。 もっとも、望ましいのは安価供給を可能な限り国産で賄うことだが、コメ離れとグローバル化で縮減した国内コメ市場にはやや荷が重い。国民皆が農業に関心を持ったりコメだけを主食としたりする未来も見えない中、現実的なのは安価米を安定的に輸入しつつ、生産コストの削減・技術の導入などの努力を尽くした上でコメ産業をソフトランディングさせていくことではなかろうか。これが私の思う21世紀のコメ政策の指針である。
東京大学教養学部3年 長澤侑吾
