2025.4.29 4月フォーラム 「2024年来の物流問題 DX/法整備のリアル」

講師:ハコベル株式会社 坂東力氏
略歴:2022年に東京大学大学院学際情報学府を修了後、ラクスル株式会社へ入社。 ハコベル事業部に配属となり、その後分社化を経て現職。 AIを活用して配車工数削減を実現する「ハコベル配車計画」の立ち上げを経て、現在は物流DXを推進するプラットフォーム「ハコベル配車管理」のサーバーサイド開発を行っている。 学生時代はKIPにてプロジェクト(海外研修)や委員会に所属し活動。委員会就任中よりホームページのシステム作りを担い、卒業後も後輩陣に多大な協力を惜しまず教授した。
【スピーチと質疑応答】
2025年度初回の4月フォーラムでは、KIPのアラムナイである坂東力氏にご講演いただいた。企業にて物流DXを推進するプラットフォームの開発などに尽力している経験から、これからの物流業界のあり方や、2024年問題、DX・法改正の実情などについてお話しいただいた。講義は、トラック輸送を中心とした物流業界の重要性に始まり、次に物流業界が抱える問題について、そして物流DXの具体的な事例についてという流れで進んだ。 「物流」は、単に「物を運ぶ」だけでなく、保管、荷役、包装など多岐にわたる工程を含み、「経済の血流」とも称される重要な役割を果たしている。特に、トラックによる輸送は全体の輸送量(トンキロベース)の9割を占める重要な手段であることから、本フォーラムの焦点はトラック輸送に当てられた。 次に、物流業界が抱える問題についてである。近年、EC市場の拡大により、物流業界の取扱量は増加傾向にあり、労働力の高齢化や長時間労働、低賃金などの問題が業界全体を疲弊させている。こうした「物流の2024年問題」に対応する政策に関して、働き方改革関連法の施行についても言及され、ドライバーの労働時間に規制を設けるとともに、元請け企業には下請け企業の管理簿作成が義務付けられ、多重下請け構造の是正が図られていることが説明された。 最後に、物流DXについてである。物流業界では上記のような問題を背景に、一部の企業では技術革新が進んできている。属人的な業務の改善や待機時間の削減に結びつくことが期待される、AIによる配車システムや倉庫の自動化、トラック予約システムなどが具体的事例として挙げられた。また、共同輸送や中継輸送といった新たな取り組みにも期待が集まる。講義後の質疑応答では、アナログな業界慣行からの脱却を困難にしている原因や、新技術導入に向けた統一化の課題などについて、参加者から活発な質問が飛び交った。
【グループ討論と全体討論】
討論テーマ「送料無料・即日配送について、①1個人としては続いてほしいか ②社会全体としては続けるべきか」のもと、まずは3人グループで意見を交換し合ったのち、参加者全員で討論を行なった。この討論テーマは、ラストワンマイル輸送は負荷が高いという問題、そして消費者庁からEC業者に送料無料の廃止要請があったことなどを背景に提起されたテーマだった。興味深い論点として、送料無料・即日配送を廃止したところで現行の問題は解決するのかどうか、送料無料・即日配送は事業者にとって武器なのか脅威なのか、人口減少がどのような影響を及ぼすか、消費者ができることは何か、などが挙げられた。 送料無料・即日配送を「続けない」側の意見としては、送料無料の裏側で送料を負担している事業者(特に中小企業)の負担が増えてしまうこと、即日配送は必須ではなく、利便性よりもドライバーへの負担を考慮することの方が重要であることなどが挙げられた。反対に、送料無料・即日配送を「続ける」側の意見としては、AI配車予測システム等の技術革新により将来的には持続可能な形での物流が可能になること、M&Aによる経営統合が進むことで多重下請け構造が改善され、送料無料・即日配送を続けたとしてもドライバーへの待遇は改善することなどが挙げられた。 他にも、消費者の立場からでは、「送料無料」の場合の送料を誰が払っているのかが見えないため、問題意識を持ちづらいという点が指摘され、消費者へのインセンティブとして環境配慮やドライバーへの配慮を可視化するシステムが提案された。 一方で、送料無料・即日配送を廃止することが、果たしてドライバーの待遇改善や人員不足などの問題を解決することにつながるのかといった疑問を呈する意見も聞かれた。送料無料・即日配送は大企業による企業戦略であるため簡単に廃止することはできず、それよりもドライバーの待遇を悪化させている多重下請け構造や運賃の中抜きを解決することの方が重要であるという主張もあった。 また、物流業界の問題に対して学生にできることは、インターネットショッピングで「まとめ買い」をすることによるコスト削減など、普段からの習慣づけであるという提案もなされた。
【全体私感】
物流業界の人手不足や疲弊に関して、消費者1人にできることは少ないと考えていた。しかし、本フォーラムを通じて、まとめ買いを心がけるなど、私個人にもできることがあるということを学ぶことができた。また、個人的には、注文が小口化・多頻度化しており、ドライバーが少ない荷物を頻繁に運搬する必要が生じている現在の状況に、勿体無さと改善の余地を感じる。ネット通販向けの販促を担う企業の立場や、荷物を受け取る消費者の立場など、複数の異なる立場からの意見が飛び交い、高校生・大学生・社会人が混合で討論を行うKIPならではの議論が展開され、大変興味深かった。
東京大学農学部4年 久世 優衣