2024.7.13 7月フォーラム 「医療における新しい技術開発の在り方」

講師:千葉敏雄医学博士

略歴

1975年東北大学医学部卒、医学博士。 専門分野は小児外科。 1986年米国ピッツバーグ大学小児外科講師を経て、1997年米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)胎児治療センター客員助教授に就任。 1998年同センター客員教授、上席研究員となる。 2001年には日本に帰国し、国立成育医療研究センター特殊診療部部長に就任する。2005年東京大学情報理工学系研究科教授。また、アメリカで胎児の内視鏡手術を執刀していたことから、2006年NHK技術研究所とともに8K内視鏡の開発に着手。2014年には8K内視鏡の手術への応用にヒトでは世界で初めて成功する。 その後2012年に、一般社団法人メディカル・イノベーション・コンソーシアム(略称:MIC)を設立、理事長に就任する。2015年日本大学総合科学研究所教授。2016年には、8K硬性内視鏡の実用化に向けカイロス株式会社を設立し代表取締役会長に就任。2020年2月には世界で初めて8K内視鏡を実用化・製品化したことなど、これまでの取り組みが評価され、アルベルト・シュバイツァー賞の最高賞(および医学賞)を受賞する。

千葉敏雄氏から、医療の困難を解決する技術開発や遠隔医療についてお話を伺い、医療の地域 格差を縮小するための遠隔医療のあり方について議論した。

【スピーチと質疑応答】

医療における困難とそれを解決する技術開発についてお話を頂いた。既存の医療は発展してきてはいるものの、困難が多く残っていることを再認識した。それを解決するための手段の一つとして技術開発があり、8K内視鏡が医療の困難の一部を解決しつつあるというお話を伺った。遠隔診療においても、医師と患者の間で技術的な壁や心理的な壁があり、それを解決する技術の必要性を学んだ。質疑応答の際には、オンライン診療が受け入れられていくためには、簡単なところから始めて有用性を示していかなければならないことや、医療における技術開発では医師、技術者、ビジネスパーソンの三者間での協力が不可欠であることを指摘された。

【グループ討論と全体討論】

「医療の地域格差を縮小するために、遠隔医療はどうあるべきか。また、遠隔で診療することによる問題はどのように解決されるべきか」という議題について議論を行った。遠隔で診療を受けることができるメリットとして、身体的に移動が困難な方や移動に不便な地域に住んでいる方が気軽に診療を受けられる点や距離があっても専門的な診療を受けられる点が挙げられ、専門性を持つ医師と地方の患者のマッチングシステムやオンラインでのデイケアが医療の地域格差を縮小するという意見が出た。また、デメリットとしては、オンラインでの心理的障壁やさまざまな医師の診療を受けることができるために、医師の間での情報共有の必要性も指摘された。情報共有を支える技術として、現在進められている薬剤情報のマイナンバーカードへの紐付けが有効だという意見が出たが、情報を国が管理することへの疑問も呈された。このように、遠隔診療のあり方について活発な議論が展開され、地域格差の縮小のための遠隔医療の形について具体的に考えることができ、医療の将来について新しい展望を得られる議論となった。

【全体私感】

今回のフォーラムでは医療技術や医療の地域格差について新しい知見を得られ、大変勉強になった。大学進学とともに便利で溢れる東京で暮らし始め、忘れがちになってしまっていたが、確かに医療の地域格差は存在している。医療の地域格差について私の経験以外の新しい観点から再認識する機会となり、大変良い機会をいただいたと思う。討論では、私は技術的な困難について注目してしまったが、医師と医師との情報共有やオンラインでの心理的な壁などコミュニケーションの課題についての意見が他の方から出ていて、興味深かった。技術開発には技術者だけでなく医師もビジネスパーソンも必要だというお話があったが、コミュニケーションの課題は実際に診断を行う医師の意見なしでは解決することが困難な課題の一つだと思う。近年では技術開発が推進され、多くの患者さんが救われるようになってきているが、千葉氏は電子カルテや診断におけるAI利用など機械の利用が常識となってきた中で、医師の本質がコミュニケーションに移っているとおっしゃっていた。今回の討論ではシステムによる医師同士や医師と患者とのつながりに焦点が当てられていたが、実際の診療に参加する医師と患者の態度も変化が必要なのだと感じた。技術開発により変わりゆく社会全体に関わるお話で、技術との共存が社会にもたらす影響とその難しさについて考えさせられた。

東京大学教養学部2年  荒田 尚哉

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