2024.6.30 6月フォーラム 「香港・アジアにおける政治・経済状況」&「海外で働くこと」

講師:油井英孝氏 日本株運用のポートフォリオマネージャー

略歴

油井英孝氏 KIPの第一期生でもある油井氏は、大学卒業後の2009年外資系投資銀行モルガンスタンレーに入社。その4年後に香港に渡りヘッジファンド勤務後、2015年にCanada Pension Plan Investment Board(カナダ年金基金)に入社。現在は香港にてActive Equitiesの日本株運用のポートフォリオマネージャーとして勤務。 KIPには海外で働きたいという夢を持って2008‐2009年に活動参加。

油井さんに世界の中での日本と中国の位置付け、そして、今後の社会状況を踏まえたキャリアプラ ンの考え方を教えていただいた。グローバルな視点を持った上で、悩み続けながらも人生の道筋を 決めていくためのヒントが得られた。

【スピーチと質疑応答】

まず、油井さんが大学を卒業された2009年当時に考えていた、日本と海外の現状分析と予想、そしてキャリアプランを立てた時の戦略をプレゼンしていただいた。「何に人生をかけるか」が戦略の軸となる。これを決めると人生のテーマも努力量も決まり、それで人生の半分が決まってしまう。だからこそ、戦略的に考え、安易に決定せず、諦めずに粘り強く努力することが重要だ。そう力説されていた。 次いで、香港で働く中で感じた中国と香港の特徴、そしてにわかに注目されている日本の強みについて議論を深めた。質疑応答中、外資系企業誘致による香港内での変化や、市民と大陸との関係について、イギリス統治下から遡って解説していただき、香港経済への理解が深まった。私は世界の経済状況に関して人並みの知識を持っているつもりだったが、非常にレベルの高い議論に圧倒された。

【全体討論】

2040年の社会状況を予想し、自分の進路はどうなっているか。参加者一人ひとりがフレームワークを手短に話した。メディア、コンテンツ業、農業、ロボットのデザイン、など各々の専門に基づいた興味関心や、空からの配達とスマート家電による未来の生活について話される方がいた。AIを使えるのは当たり前であり、さらなる専門性が求められる時代が来ることや、システム導入時の意思決定者と現場での違いなど新技術がもたらす変化と困難について具体的に語られる方もいた。 参加者のコメントを受け、油井さんからのアドバイスをいただき質疑応答をした。専門性を高める目標の「山」を複数持つべきか一つに絞るべきか、山を見誤った場合にはどうしたら良いか、などの質問が挙がった。

【全体私感】

KIPの現在の現役生が、KIP一期生の油井さんと同じ年代になるのは2040年であり、その時の社会とそれまでのキャリアが今回の一つのテーマだった。「次のロールモデルになってください」という司会の言葉に、世代を超えたKIPの深みを感じられた。参加者全員が、自分のキャリアや関心分野と注目している社会の動向について話されていたため、一参加者として非常に興味深かった。仕事で全力を投じながらも、自分のキャリアプランについて俯瞰して考えなければいけないがどうバランスを取っているのか、と私が質問した際の油井さんの答えが印象的だった。「意見変更は毎日のように行っており、意見変更を恐れずそう安易に結論を決めないでほしい。」進路の岐路に立ちながらも悩みが残る私にとって新鮮だった。 今回のフォーラムを通じて、油井さんの魅力的な人柄がうかがえた。「プロフェッショナルの山、家族の山、趣味の山」の3つの目標があり、「それぞれで学びがあり、互いに生きる」と話されていた。仕事で一流であるにも関わらず仕事以外でも向上心が強い油井さんの姿に感銘を受けた。また、グローバルに必要とされる人材の条件として、個としての専門性に加え、「日本人として愛される」ことを挙げていた。現在の日本の社会状況について話せることが前提の上で、面白い話ができ、一緒に働いていて前向きになれる人だと良い、と言う。最後には一人の人間としての魅力が評価される点が個人的にとても納得がいった。

東京大学理学系研究科修士2年  加藤辰明

戻る