2024.4.21 4月フォーラム 「日本は野蛮な国か 文化と環境保護問題」

講師:東京大学農学部4年 毛防子璃奈氏

毛防子氏から、鯨の生態や人間との関わりについてお話を伺い、その経済的利用の是非について議論した。

【スピーチと質疑応答】

鯨の生態という自然科学的な面と、その利用をめぐる社会科学的な側面の両方についてお話を伺 った。鯨が大きさや生息域などが非常に多様化した生物であることを再認識した。その一方で「スー パーホエール論」として揶揄されるような、鯨の多様な特徴を一絡げにしてしまう思想が蔓延してい ることを知った。その後、捕鯨に関してIWC(国際捕鯨委員会)で様々な議論がされてきたことを学ん だ。IWCでは「先住民生存」「商業」「調査」の三つの目的で捕鯨が大別されている。質疑応答の際 には、このような区分がある程度恣意的と言えること、そしてIWCにおいて科学委員会の提出した科 学的な知見(鯨の)もうまく適用されてこなかったことについても知見を得た。

【全体討論】

「国際的批判下でも日本は既存の方法で商業目的の捕鯨を続けるべきか」という議題について議 論を行った。はじめには、日本における商業的な捕鯨を一産業として捉え、その経済性や成長のポテンシャルについての議論が重ねられた。商業捕鯨の継続に反対する意見としては産業として強いとは言えないこと、また捕鯨を続けることが調査研究に与える影響を懸念する声も挙げられた。一方で異なる切り口からは、批判が仮に趨勢だとしても文化を一方的に否定し、地域住民に心理的なダメージを負わせるような指摘に従う道理はないとする意見もあった。また、捕鯨を一産業として見た場合、従事者がいる以上は簡単な理由で廃止する決断を取ることはできないとの意見もあった。「国際的批判下」といっても一部の国家の批判がほとんどであり、日本との重大な外交マターにはなりにくいとの考えから現存の捕鯨を廃止するほどの理由はないという意見も挙がった。このように多面的に議論が展開され、それぞれの長短を比較しながら落としどころを探る議論が重ねられた結果として商業捕鯨の持続を支持する意見が最終的には多数であった。

【全体私感】

今回のフォーラムのタイトルには「日本は野蛮な国か」という極めてセンセーショナルなフレーズが使われている。捕鯨を続ける日本を「野蛮」と断ずるのは、捕鯨を悪と見る人々の感情である。彼らの思想の根本にあるのが「鯨>他の生物」とする自然観にせよ、鯨を地球のコモンズと見る価値観にせよ、結果として彼らの感情によって起こされる行動が捕鯨を続ける人々への加害性を帯び、結果として感情の応酬を生んでいる。 討論における議論のように、捕鯨を続けることによる実益的な議論と、加害に対する感情論の部分が混同しやすいのがこの問題の厄介なところである。それらの議論を混同せず、冷静に議論を重ねることが問題解決への第一歩だと感じた。 また、より抽象的な部分でも学びは大きかった。捕鯨問題の根本には、様々な「多様化の無視」とい う過ちがあると考えられる。それは鯨の多様性を無視した「スーパーホエール」的思考や、捕鯨の目 的を「生存」か「商業」に単純化してしまう考えなどである。一方で日本人の我々も商業捕鯨の意義 について、「文化だから」と拘泥するのではなく商業捕鯨をすることによる研究への影響など、幅広 い視点を持たなければならない。また、捕鯨を産業として捉えた際にはたとえ少数でも従事者がいる以上は簡単に廃止する、などの決断はするべきではない。このように、問題に関わる多様なステークホルダーの持つ重層的な多様性を考慮することの難しさと重要さについて考えさせられた。

東京大学教養学部2年 長澤侑吾

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