2023.3.18 3月イベント 「医療から見たバイオテクノロジー、ゲノム編集への挑戦」

講師:東北大学 医師 矢坂健氏

【プロジェクト最終発表】

第1部では2022KIPプロジェクトメンバーより「食を通して見た持続可能なコミュニティのあり方」と題して発表が行われた。2回のアンケートを通して食はコミュニティ形成に重要な役割を果たしているものの、多くの日本人の若者が食の重要性に無自覚であること、東南アジアにおいても日本同様、食は人間関係構築に重要な役割を果たしていることが分かった。地方研修・東南アジア研修・アンケート結果より、コミュニティを形成する要素として低コスト・時間共有・開放性の3点が重要であり、これらを全て満たすものが「食」であると結論付けられた。フォーラム後に懇親会を開催し、食を通したコミュニティ形成を実践した。
第2部ではKIPアラムナイ東北大学医師の矢坂健氏をお招きし、ゲノム編集についてお話を伺った後、「ゲノム編集技術は発展し汎用されるべきか、或いは人間は超えてはならない一線があるのか」についてディスカッションを行った。

【スピーチと質疑応答】

矢坂氏のご講演では、21世紀に入ると、次世代シークエンサーの使用によりゲノムを読む技術が飛躍的に発達し、遺伝子変異の判定が容易になったこと、ほとんどの病気は複数の遺伝的要因と環境要因が絡み合う多因子疾患が多いが、単一遺伝子の変異が疾患の原因となる単一遺伝子疾患があることを述べられた。CRISPR Cas9はゲノム編集を容易にしたが、技術的ボトルネックが存在する。単一遺伝子疾患の遺伝子変異の部分を受精卵の段階で編集することで、そのような疾患を根絶できる可能性がある。一方で胚細胞ゲノム編集が今後実現されることで、将来罹患しうる疾患の予測、エンハンスメントの恣意的な実行も可能になるのではないかという倫理的な議論が起きている。質疑応答では胚細胞ゲノム編集は体細胞ゲノム編集とは異なり将来的にも遺伝子が受け継がれるためより議論になっていること、現時点で胚細胞ゲノム編集の法規制が日本にはないこと、ゲノム編集は安価に行うことが可能であることを伺った。

【グループ・全体討論】

グループ討論では「ヒト胚細胞ゲノム編集への規制はどうあるべきか」「ヒト胚細胞ゲノム編集医療は障碍者、遺伝子疾患を持つ人々の尊厳を否定することとなるのか」「将来ヒト胚細胞ゲノム編集医療が実現した場合、どのような懸念点があるか」の3つのテーマから各グループで話し合うテーマを選択し討論した後全体討論を行った。多数のグループである程度共通していた意見としては、胚細胞ゲノム編集技術は単一遺伝子疾患への適応は許容されるが、エンハンスメントへの応用は規制されるべきであり、ゲノム編集技術に対する規制は作るべきであるというものであった。全体討論ではゲノム編集の責任は誰がとるべきか、特に親子の責任問題について話し合われた。

【全体私感】

ご講演・討論を通じて、医療技術の進歩とともに、従来根治することが難しかった疾患の治療が可能になると同時に、様々な倫理的問題が生じうるということを考える機会となった。倫理的問題は胚細胞ゲノム編集のみにとどまらない。例えばヒト胚を壊すという点においてヒトES細胞の研究に関する倫理的問題が話題に上がったのも記憶に新しい。倫理的問題を含めて、進歩した技術を正しく恐れ、使用していくことが今後の医学の発展に大切なのではないかと考えた。

東京女子医科大学医学部4年 小川 真依

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