2022.2.19 2月フォーラム「ものづくり産業を通して見る日本の未来~理系人材に必要とされる教養とは~」

自動車部品メーカー 町田 雄太氏

経歴
2014年東京理科大学大学院卒業後、セイコーエプソン株式会社へ入社し、研究開発本部にてウェアラブルデバイスの技術開発に従事。その後2017年より自動車部品メーカーに転職し、現在はデジタルソリューション本部にて、タイヤのデジタル化のためのセンサおよび周辺システムの開発、および会社のDX(デジタルトランスフォーメーション)の企画構想・推進業務に従事している。

内容紹介

【スピーチと討論】
今回のフォーラムは、オンライン形式で行われた。最初に、町田氏に日本のもの作り産業についての概観を示していただいた。前提として日本のGDPは直近30年において停滞傾向にあり、日本の新製品・サービス開発力は国際比較して弱まっている。日本における製造業の状況としては、ユーザーへのサービス提供の部分ではDX化が遅れており、以前は日本の強みで合った材料の研究開発から製品の製造までを中価格・高品質で行うという点も、中国が低価格・高品質で製造を行うようになり、存在感が小さくなっている。今では材料分野における研究開発においてのみ研究者のノウハウが生きており優位性を保っているが、マテリアルズインフォマティクスやAIツールによる効率化の進展によってその優位性を失う日も遠くないだろう。デジタル化によって業務プロセスが大幅に変化した現代では、顧客価値を最大化できるようなデータを用いた仕組みの再構築が求められている。あらゆるプロセスで技術のイノベーションが必要とされ、既存事業を深めつつ並行して新規事業を探索する、知の深化と知の探索を同時に進める両利きの経営が重要である。加えてサーキュラーエコノミーやカーボンニュートラルの重要性が叫ばれる現在では、大局観を持ってビジネスを推し進める必要があり、理系人材であっても専門的なスキルに加えて分野横断的なスキルも求められる。
一方で日本の理系人材の現状としては、工学系の卒業者数は1990年度に比べて2021年度では1万人ほど減り減少傾向にある。その中から製造業に進む人材の割合も低下し、ものづくり産業では常に人材不足の状況にある。さらに高度理系人材については、先進国では博士号取得者数が増加傾向にあるのに比べて、日本は減少している状況である。昨今求められているIT人材についても、米国に比べてその人材の総量が少ない上に、IT人材はIT企業に偏在しており、メーカーなどでデジタル化が進みにくい構造となっている。すなわち、各社がデジタル化を進めるには外部の業者と連携する必要があり、このことがDX化の遅れにつながっている。また理系における女性人材については、日本でも女性研究者は増加傾向にあるが、他の先進諸国に比べると少ない。
理系人材の育成という面では、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)制度で理系に進学する人は増えた。近年ではSTEM教育など分野横断的な学びを推し進める動きも見られるが、「誰が何をどうやって教えるのか」という点が課題となっている。足元では専門知を持った理系人材が不足している上に、さらに長期的な目線での文系・理系という枠に捉われない広く深い教養を兼ね備えた人材の教育も急務であると言える。

【グループ討論と全体討論】
今回は「日本の理系人材を育成するために教養と技術のどちらを先に伸ばすべきか」というテーマで討論を行った。「先に教養を伸ばすべき」という立場では、若いうちは幅広い内容を学んでおくことで視野やその後の選択肢が広がる、また共通言語としての教養を身に着けることで技術者になった際も他分野の人と協調するためのコミュニケーション能力がつくなどの意見があがった。一方で「先に技術を伸ばすべき」という立場の意見としては、自分の武器として一つ技術を極めることでその学び方を他の分野にも転用できる、時間を多くとれる学生のうちに専門性を磨いて後から学び直しとして教養を磨いた方が良いなどの意見があった。また教養と技術は相互作用し合うものなので両輪で学んでいくべきという意見や、実学を重視しすぎると一見すぐに役には立たないが重要な学問が軽視されるのではないかという問題提起などもあり、活発に議論が行われた。

【全体私感】
私も理系学生の一人として、今後の日本社会で求められる技術と教養を伸ばしていくことの重要性を知ることができ、大変有意義なフォーラムであった。日本の産業界が競争力を取り戻すためには、文系理系問わず広い視点で学ぶ姿勢を持ち続けていく必要があるということを再確認した。

(東京大学大学院 修士2年 坂東 力)

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