2022.12.26 12月師走会 「ウクライナ留学生との合同討論会」

今年度の師走会では、2022年度KIPプロジェクト「食を通してみた持続可能なコミュニティのあり方」に関する研究中間発表、さらにウクライナからの留学生を招いて日本とウクライナのメンバーによる合同討論会を行った。討論においては「SNSにおける投稿は検閲を受けるべきか」というトピックの元、ロシアとウクライナの間に起きている戦争に止まらず、SNSが持つ影響力と言論の自由に関する討論を実施した。

【スピーチと質疑応答】

まずは、ウクライナから日本の大学に留学している3人の学生から祖国の実情や祖国に残る家族のことなどリアルな経験を話していただいた。最初のスピーカーは、ロシアが軍事的のみならず、言語や教育体制など、文化的な側面においてもウクライナを侵攻していることを私達に教えてくれた。通常の学校生活ではなく、オンライン授業や日数を減らしての登校、停電など、ロシア侵攻による影響は教育現場に大きく出ていることを知った。常に当たり前のように存在する教育の場が、他国に侵攻され変化していく様子を目の当たりにするときの心情は、私たちが容易に想像できるものではないだろう。なんの罪もない子供たちが、学ぶ機会を奪われ、命の危険に晒されていることは許し難いと感じる。学校と同様、病院も普段とは姿を変えてしまったと、2人目のスピーカーの方は実体験を交えて伝えてくれた。3人目の方はそれらの現状を、数値を交えて、具体的な戦況を統計的に伝えてくれた。彼女たちの体験談と、それを伝える言葉は非常に力強く、我々の心に深く刻まれた。平和が当たり前となってしまっている日本で何気ない日常を我々が送っている一方で、家族との数時間の音信不通が最悪の事態を想定させるような環境下で暮らす人々がいることを想像するのは、今回のようなウクライナ避難民から直接お話を聞く機会がなかったら難しかっただろう。私たちが彼らの経験を完全に理解することはできないが、彼女らの言葉を念頭に置きながら、ウクライナのために私たちに何ができるのか、改めて考えていきたいと強く思った。

【グループ・全体討論】

今回は、「SNSにおける投稿は検閲を受けるべきか」というテーマで討論を行った。グループ討論・全体討論共に、論点は、①検閲自体の賛否②検閲に賛成の場合、誰が検閲を行うか③検閲に賛成の場合、どの程度検閲は行われるべきか、の3点が中心であったと考える。①については、賛否両論挙がった。あらゆる情報が錯綜する戦争下に存在するウクライナ学生の講演で述べられた、すべての情報にアクセスすることの重要性から、検閲に反対する班があった。それに対し検閲賛成側の班からは、ヘイトスピーチなどの危険性を排除するためにも、公正な機関による適当な検閲は必要であるという意見が出された。この「公正な機関」そして「適当な」が何を意味するのか、という点に関しては、賛成側の班でも意見が割れた。検閲を行う機関については、独裁的な国家による情報操作を避けるため、国家による検閲は反対するという意見は全体で一致していた一方で、国家の代替となる機関には、IT企業やAIなど、多様な意見が出された。質疑応答では、異なる意見に対して、そのような結論に至った理由を問う興味深い質問が多く見られた。問いに対する正解がないだけに、議論が白熱する場面も多く見られたが、これを通して、検閲のメリットデメリットを明確化できたと思う。

【全体私感】

 今回のフォーラムで一番印象に残ったのは、スピーカーとの質疑応答の部分で話された、「ウクライナ学生にとって誰が心のサポーターになっているか」と言うことである。あるウクライナ学生は、「日本にいる自分ではなく、ウクライナで危険と直面しながら生活する家族が自分を精神的に支えてくれている」と話した。ウクライナ避難民が生活する日本で我々が次にするべきことは、金銭や物資の支援だけでなく、彼らの精神的サポートであろう。私たちが完全に彼らの状況を理解することはできない。しかし、それでも彼らの声に耳を傾け、理解しようとすることはできる。そのウェルカムな姿勢こそが、彼らと彼らの国を支援するための第一歩だと感じた。

早稲田大学先進理工学部4年 寺林咲希

戻る