2021.9.23 9月フォーラム 「コロナ禍で、文化・芸術はどう生き延びることができるか」
加納 民夫氏
経歴
東京藝術大学楽理科卒業。NHKに入局後N響アワーなど数々の音楽番組を演出。
NHK交響楽団に出向、指揮者や曲目の構築を担当。1990年復職、チーフプロデューサーを経て音楽番組部長、2002年N響常務理事、 2008年日本オーケストラ連盟理事・事務局長、 2013年から日本芸術文化振興会専門委員を経て2018年より現職に従事。
内容紹介
【スピーチと質疑応答】
まず、加納様から、コロナ禍での文化芸術分野の取り組み、政府の補助政策、諸外国との比較、などをテーマにお話をいただいた。音楽イベントの中止や、オンライン配信の課題などに加え、渡航制限によって財団による楽器貸し出し事業に深刻な影響が出ているというお話など、改めて今回のコロナ禍が音楽業界の様々な面に打撃を与えていることを再認識させられるご講演であった。また、コロナ禍で始まった新たな取り組みなど、今後の文化芸術の振興を見据えたお話も伺った。
質疑応答では、演奏者や観客の立場からの質問や、現在の課題などについて活発なやりとりがなされた。アマチュアの演奏者への影響に対しては、現在様々な工夫がなされていることを取り上げていただいた上で、楽しむこと、どのような形でも続けることが大事だというお話が印象的であった。また、加納様にとって文化とは何か、という質問に対しては、文化は人を育てるものであり、人が育てていくものであるというお話をしていただいた。
【グループ討論と全体討論】
今回の討論は、「文化芸術は客層を広げるために無料でオンライン配信を行うべきか、あるいは希少性と質を担保するために有料でのオンライン配信をするべきか」というテーマで行った。フロアディスカッションでは、配信することの負担の大きさ、価値を認めるための価格の重要性などを根拠に有料にすべきという意見と、無料配信は客層を広げるきっかけにもなることから双方を使い分けるべきという意見が出された。全体討論の中では、観客の目線から考えるだけではなく、演奏者の立場など異なる立場にも立って議論を考えることが必要という指摘もなされた。
【全体私感】
所属しているオーケストラがコロナ禍以後、練習や演奏会に様々な影響を受けてきたのを目の当たりにしてきた私にとって、特に印象的だったのは加納様がコロナ禍であっても決して悲観されるばかりでなかったことだ。コロナ禍には、音楽団体が一旦立ち止まる機会ができたという良い面もあるというご指摘や、文化芸術の普遍的価値を前向きに捉え、続けることの大切さを説かれていた姿に、これまでと比較して嘆くのではなく、新たにできることを探していくことが重要であると教わることができたと思う。
(東京大学経済学部3年 佐武 恵梨)