2021.12.18 12月フォーラム「 『わらしべ長者』から考える資本主義のあり方:個人そして社会のお金のめぐり方」
経済系官庁 多田 哲朗氏
経歴
2019年に東京大学法学部を卒業後、経済系官庁に進み2年間国際関係業務に従事。現在は仙台にて地方税務に携わる。在学中はKIP委員会でも活発に活動され、アメリカ研修、北京研修、そして地域研修など多くの研修に参加。現在も事務局員としてKIPの活動に携わっている。
内容紹介
【スピーチと討論】
多田氏は初めに昔話の『わらしべ長者』を端緒として、信仰と資本の関係、資本主義の構造など、資本主義の土台となる思考の一部や社会の現状について紹介された。同宗教国間において解釈の違いによって資本力に差が生まれていった歴史や、経済状況に応じて資本主義の構造も時代と共に変化していった流れを振り返り、現在はこれまでの資本主義の弊害を是正する新たな資本主義のかたちが希求されていることを述べられた。
【グループ討論と全体討論】
2022年度の税制改正の焦点である「賃上げ税制」について賛成か反対か討論を行った。「賃上げ税制」とは賃上げに向けた企業の取り組み状況に応じて法人税を控除する制度であり、「成長と分配の好循環」の実現に向けた施策とされている。
討論の結果、賛成のグループが過半数を占めたが、政策の妥当性や効果の検証を十分に行って、期限付きや条件付きで行うべきだという意見が多く上がり、意見の内容には差が見られた。反対のグループでは改正後の対象が一部の大企業に留まる可能性の指摘や、賃下げの難しさから長期的な不利益を招きかねないという意見が上がった。その他、賃上げそのものに対する賛否と税制を手段とすることの妥当性は分けて考えるべきと主張するグループや、賃金上昇より雇用安定を重視するべきとするするグループもあった。
全体討論では賃金と国民の幸福度の関連性や、格差に対する認識、全国一律の最低賃金と個別企業の賃上げの異同など多様な論点に議論が広がった。
多田氏はフォーラム全体を踏まえ、一市民として継続的に問いを立てて議論することが民主主義の土台であること、そして活発な議論を行うために日頃から積極性を持って教養を深めることの重要性について言及された。
【全体私感】
日々の営みにおいて税そのものを認識する機会はあれども、少し遠いところにあるように思える「資本主義」が私たちの生計に直結する税を構成要素としているという事実にまで意識を向ける機会はそう無い。税制が変わるというタイミングは、過去現在未来における社会の変化に経済施策がどう対応していくのかを客観視できる好機であり、資本主義思想の根本からの流れを巨視的に観察することで初めて正確に理解できた論点があった。一方で、討論の中では税制改正だけでは解決しない問題も顕になり、それらに対してどの様なアプローチが出来るかを考える際に多田氏のおっしゃる教養が一助となることを痛感した。KIPフォーラムは自分の経験にないことについて意見をもつ難しさ、自分と違う立場でものを考える難しさに向き合うことが出来る機会である。その点において、税は全員が当事者意識を持つトピックでありながらライフステージによって関わり方が異なる。今回は沢山の人が集う師走会の中で中高生と大学生、社会人が混ざりあって議論を行ったが、まさに目の前の他者を通じて社会のあり方を考えることが出来た時間だったのではないだろうか。
(奈良先端科学技術大学院大学情報科学領域修士1年 太田 暢)