2021.10.23 10月フォーラムⅡ 「環境問題:海に流れ出ていくプラスチック」

鎌倉 真奈氏

経歴
2019年東京大学教養学部卒業後、環境省に入省。現在は海洋プラスチック汚染対策室で、海洋プラスチックごみ対策の国際交渉やマイクロプラスチックの実態解明に取り組まれている。

内容紹介

【講話とQ&A】
今回のフォーラムは、プロジェクトJackの初回として全国の中高生13名をzoom上でお繋ぎし、FCCJとのハイブリット形式で行われた。ご講演くださった鎌倉氏をはじめとするアラムナイの皆様から大学生まで、世代間交流を大切にしてきたKIPにおいて、さらに一世代広げられた記念すべき会と言える。「海洋プラスチック汚染の現状と対策」というテーマに関して、データを分析しながらの課題認識の共有はもちろん、国策に実際に携わっている立場からの視点や国内外の流れとこれからの体系的な解説をいただけた。具体的な内容としては、まず観光業・住環境への打撃、船舶の妨害、生物濃縮の未解明といったリスクを残すマイクロプラスチック(5mm以下の破片)は、東南アジア途上国からの排出が多く、各国の消費量とは乖離があるという見解のデータもあること。次いで、個数・重量ベースで日本の海岸に実際に流れ着く人工物の種類、環境省で進められている国際条約化の動き、国内政策を確認した。これらのご講話を踏まえて、直接中の人に聞ける貴重な機会であったこともあり、環境省が各論ごとに取る見解・施策を中心に、質疑応答をさせていただいた。特筆すると、海洋プラゴミ問題では、排出量に基づく効果で考えれば途上国のインフラ支援が最重要事項であり、実際にソフト・ハード面ともに支援を行ってこそいるが、全ての国が足並みを揃えて対策を検討するためのデータ可視化などの難しさといった、国際課題全般にも通じると思われる構造的問題に及んで見識をご共有いただいた。

【グループ・全体討論】
同じ環境問題でも討論では一転、環境汚染と二本柱の地球温暖化(気候変動)へのアプローチで、未来の肉食について①イノベーションを推進する、②規制を推進する、③情報を発信する、どの立場を日本はとるべきかについて議論した。②について、国の規制が日本人の「従いやすい」国民性に与える影響力の大きさといった様々な指摘なども高校生から上がりつつ、「手がとどくところに、美味しい代替肉の開発が先決」「情報発信で理想論を共有したところで行動変革の限界があるため、契機となる投資が必要」といった意見での立場①と、「政策や技術のスムーズな導入のためにも代替肉利用の土壌を民間に醸成すべき」「単純な二酸化炭素の問題のみならず、畜産業関連の事後など複合的な問題であるから社会に浸透する時間を要する」といった意見での立場③の間での議論が深まった。総括時にご指摘いただいた点だが、イノベーションを検討する際に代替肉技術ありきで議論してしまったが、動物肉の利用を妨げない、或いは代替肉以外のたんぱく源という方向のイノベーションについての議論に余地があるようであった。動物肉をやはり食べたい本能、食べてきた人類の歴史も視点として挙げられた。
また、新歓行事として初参加いただいた学生や中高生からの感想には、社会人・学生の専門分野への知識の深さ、大いに先輩である世代との意見交換で得られる新しい視点の多さ、そして持っている意見や疑問を言語化する難しさについて多く挙げられた。KIPでも誰もが議論の初心者の段階で抱くと思われる感想であり、若い世代・中高生の視点から得られる学びを当然大切にする姿勢を再確認した。

【全体私感】
様々な「環境負荷」の大きな産業の存続不可避な面を守りつつも環境対策をする際、考慮すべき項目多さ(実現可能性、効果の大きさ等)に改めて気が付けた。特に情報発信の主語と対象の明示、長期的・即時的政策かでの差異について、抜けていた視点をいただけて収穫だった。また全体を通じて、教育の余地についての議論で中高生の現場の声を少し聞けた等、この世代間交流・他者との関わりを通じての自己発見の醍醐味をすばらしく感じた。教育改革の余地の方向性に対する私見も混ざってしまうが、このフォーラムのように「社会課題の認知と自分なりの意見を交換する」機会の大切さを実感した。

(東京大学理科一類1年 榎原 茉央)

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