2019.5.14 「国際情勢の読み方」
元駐米特命全権大使 藤崎 一郎 大使

藤崎一郎大使: 外務省に入省後、米国ブラウン大学、スタンフォード大学に留学。アジア局外務参事官、ジュネーブ国際機関日本政府代表部特命全権大使、在アメリカ合衆国特命全権大使などを歴任。現在は、上智大学特別招聘教授・国際戦略顧問、慶應義塾大学特別招聘教授、社団法人日米協会会長、公益財団法人中曽根康弘世界平和研究所(NPI)理事長、一般社団法人日本外交協会理事、北鎌倉女子学園理事長をお務めになっている。

今回はスピーカーのご提案に基づき通常と異なる進行で進められた。

  1. スピーチ:国際情勢の読み方
  2. 学生ディスカッション:現在の米中関係を見て日本はどのように動くべきか
  3. スピーチ:日米中朝4国間外交と今後
  4. Q&A

まず、冒頭のスピーチにて、「国際化の3つの誤解」をお話いただきました。

1つ目に、国境という概念の誤解が日本人にはあると指摘されました。国際化が進み、国境がなくなりつつあると言われますが、実際には国境は確実に存在しており、国益がぶつかるのが国境だと言うことです。

2つ目に、日本人は発信ベタだという誤解があるが、実際は受信ベタだと指摘されました。質問をして相手から回答を得るというプロセスを繰り返すことで、受信上手になります。それを発信することで、発信上手になるので、まずは無理に発信ばかりせずとも良い付き合いはできるとおっしゃいました。

3つ目は、国際化が進めば英語以外の他言語も必要であるという誤解があるとのことでした。英語が国際言語である現状は今後も続くと予想され、中立的立場で話すためには、まず英語を習得する必要があるとのことです。しかし、他の外国語を勉強することは、その言語のネイティブスピーカーとネットワークを構築するためにとても重要なことであるとご自身の経験を踏まえて話されました。

次に、「現在の米中関係を見て日本はどのように動くべきか」のテーマで、学生間でディスカッションを行いました。学生からは、日本の安全保障のためにも米国に追従すべきだという声や、日本経済を衰退させないための方法論として車などの製品を米中以外に輸出できるルートを作るべきという声があがりました。藤崎大使は、学生の討論について、鋭い見方ができていると褒めつつも、少し楽観的な議論に終始しているのではないかと指摘されました。現在の国際関係が今後も続くとは限らないので、外交においては最悪の場合を想定する必要があるとのことです。

最後に、日本・中国・アメリカ・北朝鮮の4国の関係のお話をしてくださいました。米国と中国が貿易戦争を行うことは、日本経済へ負の影響があると同時に、中国の知的財産の侵害に対する対応策という面では日本にとって一概に悪いとは言えないのではないかとおっしゃいました。これらも含め、現在の諸国との関係は、悪い面もあるが良い面もあると続けられ、米国と中国という今後世界をリードしていく2大国とどのように付き合っていくかは日本の経済、安全保障にとって大事な問題であると結ばれました。

お話を通して藤崎大使は、外交で大事だと考えることを2つ強調されました。1つは、スピーチや声明を鵜呑みにせずにその背景、心理を汲み取ること、もう1つは常に最悪の場合を想定して、ことにあたることです。今回のお話を聞いて自分が今まで外交の表層しか見ていなかったことに気づきました。外交問題のみならず、あらゆる社会問題に対して、本質的な理解ができるよう努力しようと思います。

(早稲田大学 創造理工学部 石井理穂)

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