2017.1.11 KIP Forum “政府開発援助 (Official Development of Assistance, ODA) を通してみる世界・アジアのなかの日本”
長野俊介氏 外務省国際協力局政策課課長補佐
長野俊介氏:略歴
大学卒業後、外務省に入省。イェール大学大学院で米国史を学んだ後、インドでの勤務を経て金融庁に出向され、日本がTPP交渉へ入る瞬間を見届ける。現在は外務省国際協力局政策課 課長補佐としてODA推進に携わる。
1月フォーラム開催。今回は、外務省国際協力局政策課課長補佐の長野俊介氏をお招きし、日本の開発協力政策の一つである政府開発援助(ODA)についてご講演をいただきました。私たちはこのご講演を通して、ODAについて様々なことを学ぶことができましたが、以下では長野氏による講義内容と質疑応答、ディスカッションの模様を抜粋してご紹介したいと思います。
安全保障や国防に関心のあった長野氏は、先人たちが尽くしてくれたからこそある日本の発展に貢献したい、日本人であることを大切にしたい、といった意志で大学卒業後に外務省に入省しました。外交の場においては、「国」が重要な単位であり、日本にとって望ましい国際環境を整備すること、つまり「国益」を最大化することが求められます。具体的には日本人の安全を確保したり、文化面で日本のイメージアップをはかったり、政治的・経済期立場を向上させたりすることがこれにあたります。しかし日本として独善的に行動するのではなく、国同士の強みを相互に活用し、弱みを補い合うことでWin-Winを追及することが同時に求められています。日本の強みは世界第3位を誇る経済力のみならず高い技術力や悠久の歴史、魅力的な文化も挙げられます。サウジアラビアの国王が日本の天皇に特別な尊敬を払っていること、日本の食がミシュランの星を多く獲得していること等は歴史・文化面の強みの例です。
ODAはそんな日本の強みを最大限活用できる、国際協力の重要なツールです。ODAの目的は開発途上国・地域の経済社会開発により、国際社会の平和・安定・繁栄に貢献することにあり、これを通じて日本の国益が確保されるとの考えに立っています。「情けは人の為ならず」との格言が示すように、ODAが慈善事業ではなく、Win-Win関係の構築を目指していることを意識しなくてはなりません。ODAには無償資金協力の他に、有償資金協力や技術協力も含まれ、相手国の状況に合わせてこれらが使い分けられます。長野氏は国際協力局政策課の一員として、ODAをいかに戦力的に使うかを検討し、大きな方向性を決めています。有償資金協力の代表的なものは円借款で、低金利・長期返済期間を原則に貸しつけを行うものです。円借款は一見、日本の経済的な負担が大きいように思われます。しかし長期的な返済期間が設けられていることで、日本と当該国との間にこれに応じた長期的な友好関係が成立することが期待できるのです。技術協力についても日本の技術が流出してしまうのでは、という不安な声が聞かれます。しかし、技術協力で移転されるのは基本的な技術であり、むしろ技術者を養成することによって現地での日本企業の設立や運営に彼らの技術を活用することが可能になるのです。
時には「どう解決しようもない問題」があります。明確な正解を与えられることがないなか、いかなる配分をすべきか。それを国民にどう説明すべきか。日々こうした課題に取り組むのが国際協力局の仕事です。
<質疑応答>
Q.「現地の需要と日本の供給のミスマッチが生じることはないか」
A.「『安くて早いインフラではなく、丈夫で長持ちする質の高いインフラを提供する』、というのが日本のODAの特徴だが、真に必要なものへの見極めはもっとも重要である」
Q.「ODAの成果を評価するのは難しいのではないか」
A.「日本企業の受注数や世論調査による数値化以外でODAによって得られたことを短期的に評価することは難しいが、国民の税金を使う事業であるためしっかり説明責任を果たしていかなければならない」
<ディスカッション>
「日本はODA予算を増やすべきか」という問いについて意見を交換しました。結果は、すべての班がODAの現状維持または増額に賛成する立場をとりました。継続的な援助を行うことで国際関係の安定がもたらされること、受注する日本企業に経済的効果があること等が主な理由でした。ただ現状の配分については、経済インフラ(輸送、通信、電力)に比べてより市民に近い、社会インフラ(教育、保健、上下水道等)への投資配分を増やすべきだとの意見もあがりました。中国人の留学生からは、「日本が中国にODA協力を行っていることはあまり認知されていない」、「国民の目にみえやすいODAを推し進めるべきではないか」という声が聞かれました。
1月フォーラムは、日本が戦後の国際社会のなかで「名誉ある地位」を築くべくとってきた試みを、ODAという視点から問い直す一日となりました。最後になりましたが、日本の外交政策の真髄に迫るご講演をくださった長野俊介氏に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
(森原彩子)