2016.11.12 KIP Forum “リーダーシップについて(ハーバードビジネススクールでのケーススタディをもとに)”
サントリーホールディング株式会社代表取締役社長 新浪剛史氏
新浪剛史氏:略歴
1981年に慶応義塾大学卒業。三菱商事に入社後、1991年にハーバード大学経営大学院でMBAを取得。帰国後に株式会社ローソン顧問に就任。2005年には同社代表取締役社長兼CEO就任。2014年に現在のサントリーホールディング株式会社に移籍され現在代表取締役社長を務める。
11月フォーラム開催。現サントリーホールディング株式会社代表取締役社長の新浪氏にお越しいただき、ハーバードビジネススクールでも使われた1996年のヒマラヤ登山隊の事件をモチーフにしたケーススタディを使いながら、リーダーシップについて講演していただきました。
本フォーラムは二部構成となり、前半は新浪氏によるケーススタディとご講演、そして後半はケーススタディをもとに、「もし自分がリーダーなら、どのように判断を下すか」を学生のみで議論しました。
新浪氏はまず、「このテキストを読んで、エベレストに行きたくなった人はいるか?」という問いかけを全員にされました。エベレストでの遭難事故が題材のテキストでしたので、行きたいという人はほぼいませんでしたが、そこから様々な問いを投げかけ、特に「テキストに登場した登山隊では判断を100%リーダーに委ねたが、そうすべきなのか、それとも他の副官や登山者にも意思決定にかかわらせるべきか」という問いに参加者の考えるリーダー像が割れ議論は白熱していきました。リーダーとして完全に自己判断に委ねるべきという意見もあれば、みんなの意見に耳を傾けられるほうがいいという意見もありました。「なぜホールとフィッシャー(テキストに登場した二つの登山隊のリーダー)は引き返すという決断をしなかったか。」という質問に対しては、自分の判断が正しいと示したかったといった意見や、過酷な環境で正常な判断を下せなかったといった意見や顧客の熱意を考えて引き返せなかったといった意見がありました。新浪氏は正しい判断はなく、第三者からしたら最も適切な判断は簡単に定まるかもしれないが、当事者がその場にいて冷静な判断ができず思考停止に陥ることは十分にあり得る、独断的に自分ですべてを決めるリーダー像もある一方で、周りに意見を言わせるリーダー像もあり、どちらの方が正しいとかはなく、それは我々自身で考える姿勢が大切ではないかと示唆されました。その上で、完璧な仕組みはなく、できるだけ完全な仕組みを作る努力をリーダーはするべきであり、最終決断はリーダーがするべきだが、周りの人の意見を聞いて議論を起こすべきであり、周りの人の意見を聞くには、リーダーの人間力と胆力がとても大事だと力説されたのが印象的でした。
今までのお話を踏まえて新浪氏は具体例を二つ挙げて話されました。一つはご自身が高校時代のバスケットチームに所属していた際の話——ベンチにいる選手の意見を聞こうとせず、結局勝てると思ったチームに大敗してしまった。試合に出ている選手とベンチにいる選手は見ている景色が違うのに、ベンチの選手の意見に耳を傾けないのが失敗につながった——という話です。二つ目に、織田信長の例を挙げ、織田信長も最後の慢心で本能寺の変を招き、結局天下統一ができなかったことに言及されました。これらの話は、いかに常に謙虚で、慢心しないでいることが難しいか思い知る例でした。また、今まで遭難事故は何回も起きているにも関わらず結局遭難事故を回避できなかったテキストの例を引用して、いかに失敗から学ぶことが難しいかをご説明下さいました。歴史上の失敗だけでなく、人間というのは自分の失敗から目を背けがちで、それゆえ失敗から学ぶことはとても難しい。しかし、それでも失敗から学べることは成功よりも多く、失敗から学べるかどうかはその人の人間力、つまり自分が失敗に向き合える度胸と周りに嫌なことを言われても受け入れられる姿勢があるかどうか、最後にもう一つリーダーである上で最も大事なことは、今回のアメリカ大統領選を例にあげながら、人間としてみんな長所短所両面もっているはず、その中での不可欠要素は「魅力的であること」と力説されました。
その後、質問タイムに入り、新浪氏は改めて自分と意見が異なる人の意見を聞くことの重要性を強調し、また若者にはもっと広い世界に出て欲しい、保守的にならないでほしいと様々な質問に対する回答の中で強くおっしゃりました。
後半の学生討論では説話にでてきた登山隊のリーダーであったホールとフィッシャーのどちらかに自分がなった場合、どのような判断を下すかをテーマにディスカッションを行いました。多くのグループは体調が悪い登山者の世話を自分で全部しようとしたのがよくなかった、登山の予定が遅れていた時点で引き返すべきだった、ルールを全員に守らせるべきだったと指摘した一方、リーダーとして副官の意見をもっと取り入れるべきだったかで意見が割れたグループもあり、一人一人が考えるリーダー像は異なるということも再確認できたディスカッションでした。
最後に、一人一人のリーダー像の違いを許容した上で、自分の考えるリーダーに必要な力を教えてくださった新浪氏に最後に感謝の意を申し上げたいと思います。全員にとって学ぶ場になっただけでなく、自分たちの考える理想のリーダー像について改めて考えるいい機会となりました。本当にありがとうございました。
(孔徳湧)