2022年3月19日 15周年記念KIPシンポジウム「未知への共存と挑戦」
第13回のKIPシンポジウムは設立15年を祝す、15周年記念KIPシンポジウムとなった。会場には15年間の歴史を振り返る写真が飾りつけられ、フォーラムや海外研修、地域研修をはじめとしてたくさんの活動を行ってきたことを振り返る機会となった。第1部として2021年度プロジェクトの研究発表、そして15周年記念講演として株式会社ALE代表取締役社長の岡島礼奈氏より宇宙産業についてお聞きし、「コロナ禍における宇宙開発と経済格差是正、どちらを優先するか」をテーマに討論を行った。
第一部では、2021KIPプロジェクトメンバーより「コロナ禍での若者の不安』と題した報告発表を行った。2回行われたアンケートでは、第一弾でコロナ禍で若者が強く不安を抱える要素として、最も多かった感染する・させる不安の次に人間関係の形成に関する不安が多いことが分かった。第二弾では人間関係の維持や形成の不安の要素かつ解決策となるオンラインコミュニケーションに着目し、SNSをはじめとするオンラインコミュニケーションをうまく使えていると感じる人ほど人間関係に対する不安が小さく、感じていない人ほど不安が大きいことが明らかとなった。そして不安の背景を深ぼるインタビューとして、既に人間関係が形成されている状態であればオンラインコミュニケーションを使うようになるが、人間関係の形成のために利用することが難しいという意見があったことが示された。
これらの研究成果として、2021年度プロジェクトメンバーは若者が不安を抱えている現状を発信することを通して不安を軽減する策としてアンケート結果の発信を行った。さらに成果として対面とオンラインのハイブリッド型の活動で全員を巻き込む方法や、対面コミュニケーションの意義を再確認する座談会の内容の発信を通したアクションを行った。
第二部では、宇宙スタートアップ企業、株式会社ALEのCEOを務められている岡島様より、現在の宇宙産業について伺ったのち、「コロナ禍における宇宙開発と経済格差の是正、どちらを優先するか」というテーマについて参加者間で討論を行った。
岡島礼奈氏:略歴
1979年生まれ、鳥取県出身。東京大学理学部天文学科卒業後、同大学院理学系研究科天文学専攻にて博士号(理学)を取得。在学中に、サイエンスとエンターテインメントの会社を代表取締役として設立。大学院卒業後、ゴールドマン・サックス証券へ入社。2009年、新興国ビジネスコンサルティング会社を設立。並行して2009年から人工流れ星の研究をスタートさせ、2011年9月に株式会社ALEを設立。
【スピーチと質疑応答】
岡島様のご講演では、まずご自身の会社ALEの事業について、そして宇宙産業の現状について伺った。主に、人工流れ星という世界初のエンターテイメント、大気のビッグデータの利活用、そして宇宙ゴミ=デブリの防止を通して「科学を社会につなぎ 宇宙を⽂化圏にする」というミッションの達成、および科学と⼈類の持続的な発展を目指されている中での内容を述べられた。質疑応答のなかでも、特に人工流れ星は、軍事や安全保障と結び付けられやすい宇宙において、エンターテイメントを提供する新たな取り組みとなっており、花火に比べても環境負荷が小さいといったメリットからも、世界的な注目を集めているという話もなされた。また、海外などと比べて、同じような宇宙産業を行うスタートアップ企業に資金が集まりにくく、その原因として、日本では リスクマネーの投資がなされにくいということが切実な問題点として浮き彫りになった。
【グループ討論と全体討論】
「コロナ禍における宇宙開発と経済格差の是正、どちらを優先するか」というテーマを基にまず5名ずつ程度のグループごとの討論を行ったのち、全体討論を行った。主に国の財源をどちらに重点的に充てるかという視点から話し合われた。グループごとにコロナ禍においても世界的に注目が集まっている宇宙開発を進めるべきであるという意見、コロナ禍で経済的に困窮している人への援助を優先すべきであるという論点の両方が挙がった。論点として、どのグループでもある程度共通していたのが、コロナ禍において、宇宙開発は、中長期的に効果をもたらすもの、および国としての利益を増やすものである一方、経済格差の是正は、経済的に困窮している人に対しての補助金といった短期的に効果をもたらすもの、および今ある国の利益をどう配分していくかということである、という点であった。
【全体私感】
ご講演について、宇宙という自分は事前知識が少ない内容についてのお話だったが、最先端の科学を駆使した事業についてのお話やそれに対する意見はとても刺激的で勉強になった。昨今、宇宙も各国の覇権争いの場となっていると叫ばれる中、人工流れ星という宇宙から新たなエンターテイメントを提供するという話題はとても平和なものだという印象を受けた。以前の宇宙空間での活動が活発ではなかったときの法整備から、あまり規制が進まないまま現在に至っているという点について、強く問題意識を持った。宇宙が覇権争いの舞台ではなく、エンターテイメントや防災を通して人間社会をより良くする、希望をもたらす場であってほしい、と感じた。
討論について、コロナ禍での国の予算をどう充てるかというタイムリーな問題について深く議論を交わしたことで、自分にとって身近な問題が、様々な人の視点を通すことで、論点や意義について再認識させられることを実感した。また、官僚でも政治家でもなく一人の日本に住む人として皆で意見を交わせたこと、そしてこのように立場にとらわれずに一個人として互いの考えを伝えあい、討論できる場が存在し続けていることに、KIP15周年、そしてこれからも続いていく、私たちが繋いでいくべきKIPの価値について考えさせられた。
(東京大学教養学部2年 王 詩帆)