2023年 KIP年師走会
今年度の師走会は、3月のシンポジウムと合体され、二部に分けて開催された。第一部では2023年度のプロジェクトの研究発表を行い、その後「小学生に農業体験を義務付けるべきか」に関する討論会が開かれた。そして第二部では、立食パーティーが開かれる中、本の交換会やKIPの歴史を振り返るクイズやKIPの絆を結ぶ歌なども行われて、とても有意義で団欒の時間であった。
【プロジェクト発表】
第一部では、まず2023KIPプロジェクトメンバーより「農業を中心とした第一次産業に対する日豪若者意識調査」をテーマとした報告発表を行った。2回行われたアンケートでは、日豪ともに「第一次産業を重労働だと思う若者が多い」、「趣味として農業に関わりたい若者が多い」ことが分かった。そして豪州で生産・政策現場での実習やインタビューを通じて、農業従事者以外にも農業関連の業種に携わろうとする若者の意欲が高く、実際に経済学や社会基盤学など、一見農業と関連なさそうな分野でも、農業とうまく連携して共栄しているケースが多いことが分かった。これらの発見は、日本で農業関連人口、とりわけ若者の割合を増やすための方策を考える上でのいい示唆になるだろう。そして質疑応答では、単に農業従事者を増やすよりは、農業と連携可能な様々な分野において、実際に農業へのサポートに携わる「農業関連人口」を増やすべきだという共通認識に至った。
【討論会】
次に、「日本の小学生に校外学習での農業体験を義務付けるべきか」について討論会が開かれた。グループ討論では、まず各自の農業に関する経験や背景を共有した。コンサルタントで農業関連の会社をサポートしたことがあったり、食品メーカーで農業と直接関わっていたり、中学時代実際に2日間の濃密な農業体験をしたりして、様々な切口から農業体験について語り合った。その後、全体討論とともに3つの論点に焦点を絞った。1つ目は、「小学生」という年齢層に着眼し、小学生はまだ未熟だから、職業選択としての農業体験よりは、「食育」、食の「ありがたみ」を身につけさせるほうが合理的で、農業関連人口の増加を目的にしたら、小学生より中学生のほうが適切だという指摘が共感を得た。2つ目は、「義務付ける」ことに焦点を当て、「人々は義務付けられることに自ずと反感を持つ」といった哲学的な観点から、義務付けることに反対する意見が強力だった。3つ目は、このような農業体験を全国で実施するとしたら、どの程度で実施するかに対して、賛否両論で意見が別れた。やるとしたらとことんやって、一週間などの長い時間でやるほうが効果的だと主張された一方、義務化するとしたら、より短い時間で実施するほうが、反感を買うリスクも低くなり、教師の負担も小さくなるという反論があった。今回のテーマに対して反対意見が多数派だったが、途中で相手の反論を聞いて自分の立場を変えた人も出てきたりするほど白熱な議論がなされて、農業体験の意義や義務化に関する理解が深めた。
【全体私感】
一番印象的だったのは、全体討論で話された「単に農業従事者を増やすよりは、農業と連携可能な様々な分野の農業関連人口を増やすべきだ」という意見である。実に洞察の深い意見だと、感銘を受けた。そして私が気づいたのは、今年の素晴らしいプロジェクトと積み重ねた討論会なくしては、このような深い結論に至ることができないことだ。何かの社会問題の解決策を講じるとき、机上の空論に留まらないためには、まずできれば大学でその課題に関する基礎理論を学ぶこと。そして議論を積み重ね、アンケートやプロジェクトなどを通じて実態に突き止め、習得した理論を用いて、みんなで話し合うことでその実態を論理的に解明し、それで初めて政策提言に繋ぐ。この一連の流れは、まさにKIPの指針であり、それを今回の師走会を通じて再認識させていただいた。また、第二部の立食パーティーのような、討論会ではなく、より自由な交流の「場」を設けて、世代、ジェンダー、背景などに囚われず幅広い交流を図ることも大変有意義だと感じた。
東京大学教養学部2年 付藝寧