2025.6.1 6月イベント 「育成就労制度 (旧技能実習制度)の是非」

【背景】

1993年に開発途上国地域等への技術移転による国際協力を目的として導入された技能実習制度は、2024年6月に廃止が可決され、2027年には「育成就労制度」が代わって施行される。新たな制度のもとでは、国際貢献の目的が見直され、我が国の人手不足分野における人材育成・確保が目指される。そんななか、外国人労働者が借金を抱え、さらには不当に働かされるといった人権問題が発生している現状がある。この労働制度の問題は何なのか、どうあるべきなのか、今回はインドネシアからの留学生を招き、討論を行った。

【グループ討論と全体討論】

討イベントのはじめにKIPメンバー2人から、日本側、インドネシア側それぞれの視点から、技能実習制度及び育成就労制度について説明があった。その後、インドネシア留学生と日本人参加者が混ざって2グループに分かれ、制度に関して自由に意見を交換しあった。そして最後にグループでの話し合いをふまえて、全体で討論を行い、制度存続の是非を議論した。制度存続に反対する意見としては、恩恵が日本側に偏っており、インドネシア側はむしろ損をしているという声が多くあがった。一方で、条件付きで制度の存続を肯定する意見も多くあった。インドネシア留学生からは技術移転が実現されるのであれば、人手不足問題を抱える日本にも恩恵をもたらす制度の存続はあってもよいという意見があった。これまでの制度では、外国人労働者が身につけるスキルは単純作業であり、加えて、多くの日本に働きに出た労働者が自国に戻らずに定住することから、結局技術移転が果たされていないことが指摘された。賛成側には、労働者を送り出す側の国ではなく個人単位に目を向けると、インドネシアなど新興国側にも恩恵がもたらされているという意見もあった。より高い賃金や、豊かな生活を求めて、自ら進んで日本に働きに来る労働者がいることがあげられた。

【全体私感】

当制度を維持するためには受け入れ国の日本と送り出し国の新興国がお互いにもっと歩み寄る必要があると思った。イベント全体を通して私は日本と新興国側のニーズのずれがあること、実習生の送り出し・受け入れ体制が十分に整っていないことが主要な問題であると認識した。インドネシア留学生が、日本が供給する技能が低スキルであるという度々指摘していたことが印象に残っている。現在提供されているスキルは新興国側の経済発展に役立たないというのだ。経済成長するにつれて、新興国側が必要とする技能(術)が変化し、日本でも、時代の変化とともに人手が集まる産業が変化していることが考えられる。ニーズのギャップはこれから拡大していくと思われるので、日本と新興国がまめにコミュニケーションをとり、調整をしていくのが望ましいだろう。加えて、実習生が生活苦を強いられていることについても言及したい。送り出し機関への支払いによって抱える借金、職場における労働搾取が実習生を悩ませていることが討論の中で話題にあがった。送り出し機関は民間で運営されている現状があり、ゆえに実習生に対し、高額な支払いが求められている。さらに労働搾取については実習生が十分な言語能力を備えていないために、不当性を十分に主張できないことがいわれている。一連の問題の解決には公的機関による統括が有効だと考えられる。制度が日本と送り出し国の双方に恩恵をもたらすことを前提とすれば、言語学習を含めた、実習生の渡航に必要な準備を日本と新興国政府が支援する体制をつくるといったことがあってもよい。それにあたって、日本側が求めること、新興国側が求めることをお互いに共有しあえば、手続きの煩雑さ、認識のずれを解消することができ、よりスムーズに実習生の送り出し・受け入れが可能になるかもしれない。

東京外国語大学社会学部ドイツ語専攻4年 羅 れいよ

戻る