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2017.5.31「高齢化、少子化、人口減少のなかで豊かさを維持するために:若者にできること」
西沢利郎氏 東京大学公共政策大学院特任教授

西沢利郎氏は東京外国語大学外国語学部と東京大学経済学部の二大学を卒業後、当時の日本輸出入銀行(現JBIC)に入行されました。その後大蔵省財政金融研究所、外務省経済協力局国際機構課、国際通貨基金(IMF)政策企画審査局、日本政策金融公庫国際協力銀行外国審査部、財団法人国際金融情報センター、国際復興開発銀行(世界銀行)民間セクター開発局などを経験された後に、現在は東京大学公共政策大学院にて教鞭をとっておられます

5月フォーラム開催。今回は東京大学公共政策大学院で教鞭をとっておられる西沢利郎氏にお越しいただきました。ご講演の内容は同氏がシンガポール大学国立大学リークアンユー公共政策大学院、韓国輸出入銀行を訪問した際にお話しされたものを一部利用したもので、現代日本に見られる「高齢化、少子化、そしてそれに伴う人口減少」という大きな変化について、若者に今できることとは何かという視点に立って論じていただきました。

本講演では西沢氏は、一人一人が自分自身で社会を見て答えを模索していく事を重要に考えており、問題がなにか、どのように対処するべきなのか安易にはっきりとした答えを出すことはされませんでした。講演は、日本で何が起きているのかを確認する事、今起きている事に対して私たちはどのように対処するべきか自分の身に即して考える事、という二つの軸をもって進められました。

今回のテーマである「高齢化、少子化、人口減少のなかで豊かさを維持するために:若者にできること」を論じていくにあたって、この大きな、ともすれば漠然としたテーマの問題意識はどこにあるのかという事を人口減少とそれがもたらす実質GDP成長率への影響、問題に対する日本政府の対応の2点から確認しました。

まずは人口減少とそれがもたらす実質GDP成長率への影響から見ていきました。今後日本の人口が高齢者の増加と若年者の減少という二つの要素を持って減少していくという事であれば、生産性は低下していき、現在の実質GDP成長率の水準を維持していく事は困難になります。その歪みはコストとして必ず誰かが負担しますが、今の日本の社会ではそれが将来世代になっていると西沢氏は指摘されます。年金負担額の世代間格差や労働における雇用慣行などはこのような問題の顕著な例でしょう。またコストを負担するという側面から、現在問題となっている地域の衰退に関して政府の出している資料を提示し、私たち自身の問題として考えるキーワードとなるよう「つなぐ力」と「ひらく事」という言葉を確認しました。

次にこのような状況において、政府の対応はどうなっているのかという事を金融・財政政策の側面から見ていきました。政府の政策において考慮されるのは、第一に、如何にして国民所得水準を維持していくのか、第二に、アジアの財政システムの発展に貢献していく事かという2点です。

現在の日本の国民所得の分布をみると家計・企業部門が黒字であるのに対し、政府・海外部門は赤字になっています。更にそれを所得の種類、経常収支の内訳から見ると大きな変化が確認できます。黒字が続いていることには変わりはありませんが、貿易収支は赤字になり、その代わりに第一次所得収支が大きく伸びてきています。このことは国民所得の支えが貿易黒字から海外への投資のリターンに代わってきているという事を示しています。海外への投資を考えるにあたって日本にある魅力的なものは質の高いインフラです。そのため日本では銀行による海外への与信が活発になっています。西沢氏は、このような背景から近年の日本の政策について見ていくと、金融庁において特徴的な動きを見ることができると言います。銀行とその顧客の相互の関係性に注意を払って管理する、このような態度は一昔前では考えられなかったそうです。

ここまでの内容を踏まえて、学生同士で“日本は定年制を廃止すべきか”というテーマを議論しました。議論は主に“経済的な豊かさを維持する事”を元に考えられ、各班の意見は主に「日本において、国内の労働力は今後減少していくから、定年制の継続によって国内労働力を確保すべき」と「定年制を廃止し、国外からの労働者受け入れによって労働力を維持するべき」という二つの意見に分けられました。

定年制の継続を提案する班からは、「豊富な経験を持つ労働者を最適に配置する事で、若者への技術の伝達に繋げる」、「課題の多い日本において、国外からの労働者を受け入れることは、各先進国でも移住労働者の扱いに苦慮しているところを鑑みて、得策ではない」、「働きたい人の退職や退職による社会関係からの阻害などが問題となっているため、そのような問題を解決するためにも働く場を提供するべき」などの意見が出ました。そして、定年制の廃止を提案する班からは、「グローバル化により、多様な視覚を持った人材は今後重要であるが、日本においては未だそれを進める地盤がないから国外の労働力を用いるべき」、「定年制の元では能力ある人材も日本的雇用慣習の下に置かれる事で力を発揮できないから廃止すべき」などの意見が出ました。この他にもこれらの意見を組み合わせたものや定年の年齢を引き上げるが廃止はしないなど様々な意見がみられました。

議論を終えたのちに、理事長の方から講演の趣旨を確認するお言葉を頂きました。日常では様々な問題が目に見えますが、それらの事態の根本は国境を越えて広く繋がっています。このような事実を知るためには、私たち学生のような自由な身分であることを生かして興味を持って積極的に行動していく事が必要なのでしょう。居心地のいい場所に留まらず、積極的に活動していくという態度こそが重要なのだと思います。

(佐々木 蒼一朗)

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