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2017.11.1「トランプ大統領とメディアの攻防:ポスト真実時代の報道」
元AP通信社 北東アジア総支配人 現神田外語大学Global Communication研究所客員教授 我孫子 和夫氏

我孫子和夫氏:カリフォルニア州立大学でジャーナリズムを、大学院でマスコミュニケーション学を学び、その後AP通信社に入社され同社の北東アジア総支配人として長く務められました。現在は神田外語大学Global Communication研究所の客員教授として教鞭をとっておられます。

 10月フォーラム開催。今回は我孫子和夫氏にお越しいただきました。最近のアメリカ大統領のマスメディアとのやり取りや、ツイッターなどSNSを使ったメッセージ送信など、ITの目まぐるしい発達により世界でのコミュニケーション方法が日々変わってきています。今回のご講演では、アメリカのメディアの現状・行方、また米国のジャーナリズムとその日本との比較など、外国特派員倶楽部も務められた経験を通して論じていただきました。

 本講演では、まず我孫子氏は知的好奇心を持つことの重要性を主張されました。様々な形態のメディアがある中で、現代は情報が四方八方から入手できる時代となりました。その中に生きる私たちは情報を鵜呑みにしてはいけず、一つの情報に対して常に疑問を投げかけ、その背景や裏を探り、他のメディアでの報道内容にまで知的好奇心を持って事実を追求していく必要があります。

 我孫子氏は始めに、トランプ氏がいかにメディアを利用して選挙で劇的な勝利を挙げたかについて論じられました。共産党の候補者全体の中でメディアへの露出が一番大きかったのはトランプ氏であり、割合を見ると50%を占めていたそうです。この数値の背景には、トランプ氏の過激な発言がニュースに取り上げられ、それがエンターテイメントになるというサイクルが成り立っていました。またSNSの利用も大きかったそうです。メディアの歴史的変化に着目してみると、政治家と国民をつなぐ媒体がラジオからテレビに変わったのは周知のことですが、現代ではそれがテレビからさらにSNSへと移り変わっています。SNSで呼びかけるターゲットとしては、ニューヨーク・タイムズなどの新聞は読まず、またテレビのニュースも見ない、いわゆるエリートではない層の人々でした。エリート層と比べて母体数が明らかに多く、トランプ氏は彼らの心をつかむことに成功しました。

 さらに我孫子氏は米国と日本で新聞のデジタル化がどう違うかについての分析を述べられました。「ニューヨーク・タイムズ」は米国を代表する新聞社の一つです。「アメリカのニューヨーク・タイムズ」ではなく、「世界のニューヨーク・タイムズ」を目指し、世界のエリート層をターゲットにするためにデジタル化を積極的に進めました。デジタル化の内容は課金制で、限られたサービスだけ無料で利用可能にすることで利用者を増やし、課金後も負担にならない値段設定をしました。一方で日本のデジタル化はあまり進んでいない上に、デジタル購読は安くはありません。新聞業界には、提携している広告や販売店の保護などの事情が伴います。デジタル化を推進していく上では、ネイティヴ広告のような編集に紛れた広告などを活用し、収入面も充実させる努力が必要です。

 これらの内容を踏まえ、学生同士で「大統領のSNSの私的利用の是非」というテーマで議論を行いました。議論は賛成派と反対派に大きく分かれました。賛成側の意見は「大統領であったとしても一人の人間、個人としての自由は守られるべきであり、表現の自由が与えられるのではないか」という主張が主にあげられました。一方、反対側は「通常は様々な議論や監視を経て述べられる大統領の主張が、SNSの私的利用ではその余地がないので危険である」「大統領の個人的な主張が外交に大きく影響する」などがあげられました。議論後の我孫子氏の総評では、大統領と個人との線引きが大事であり、公と私が区別できているのかに着目していかなければならないというお話を頂きました。

メディアの現状を十分に理解できただけでなく、メディアの存在意義やあり方などについても考えさせられ、また大量の情報が得られる現代の中で知的好奇心を持つことが必要不可欠であることを実感させられるとても貴重な機会となりました。最後に、今回私たち学生のために貴重なお時間を割いて講演していただいた我孫子和夫氏にお礼を申し上げます。ありがとうございました。

(赤澤 明日香)

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